株式相場が堅調になってきました。相場が軟調な時に過度にどきどきしてしまうのは長期投資家としてはよくないと言われますが、堅調になってきたときに喜びすぎることも、長期投資家にとってはまた必要ないかもしれません。
堅調な相場にわくわくしすぎないよう、こちらでは短期的な相場の動向とは関係のない、2020年代、30年代の世界経済の成長の動向を占ううえでキーになるかもしれない点について、頭の体操をしてみます。
この20年、世界経済成長のドライバーは中国経済の急成長
この20年間、特にアジア、アフリカ、ラテンアメリカ諸国にとって、中国経済の急成長が自国の経済成長のドライバーとなってきました。
1990年代、アジア諸国はバブル景気の後大変な経済・金融危機を迎え、ラテンアメリカ諸国は1980年代の経済破綻から生じた社会不安が続きテロリストとの内戦が続いています。アフリカに至っては何10年寄付を投入し続けても全く先が見えない状態が続いていました。
これが2000年代に入ると中国経済の急成長によって各種資源の需給が急速に変化し、資源価格が高騰しました。これにより、資源国であるラテンアメリカやアフリカの多くの国々の経済が成長軌道に乗ります。この時期は「新興国黄金の10年」とも呼ばれます。
中国経済の急成長による新興国黄金の10年間は2013年のバーナンキ・ショックをもって終わったといわれます。ラテンアメリカの資源国のうち、苦しかった1980~90年代に構造改革を断行した国々はその10年間で蓄えた富を浪費せず、その後も堅実な経済運営を行っています。
1990年代までみんながあきらめムードだったアフリカ諸国も、2011~2012年の東アフリカ諸国の干ばつ(による農作物価格の高騰に起因した高インフレと経済混乱)や2014年以降のシェール・ショックを乗り越えて、年々、もう寄付ではなく投資としてのお金が先進国から流入する状況が日常に定着してきています。
もちろん、アフリカについては、まだまだ投資を行えるのは一部の国です。それらの国々も他の地域の新興国と比べると、一般によりハイリスク・ハイリターンである点に注意は必要です。
2020~30年代は、ASEAN諸国とインドの経済成長に期待
それでは、今後20年程度はどういう時代になるのでしょうか。
2007年に米国の投資銀行であるゴールドマン・サックスが、2050年までの世界各国の名目GDPの予測を行っています。これが現在までほとんど当たっているので、これを用いて考えてみます。
この予測によると、2030年ごろにASEAN諸国の合計とインド、それぞれの名目GDPの規模がほぼ同時に日本のそれを追い抜きます。
中国が日本の名目GDPを追い抜いたのは2010年でした。ASEAN諸国の平均、インドの経済はちょうど中国経済から20年遅れで同じサイクルに入って世界経済のドライバー国となり、資源国や一次産品の輸出国がこれらのドライバー国への輸出で富を創出する姿がまた見られるかもしれません。
ダウンサイドの懸念は、元祖ドライバー国の動向
一方、これからの20年において世界経済のバラ色が約束されているかというと、そうも言えないかもしれません。
中国経済の直近の四半期GDP成長率が前年比で6%にまで下がっていることが指摘されています。しかし、もうGDPの規模が日本の3倍を視野に入れている経済大国が6%も成長しているというのは、むしろすごいことだと思います。
その一方で香港、台湾、ウイグルでの共産党政権への風当たりが強まっています。実際には確率はかなり低いだろうものの、この状況は、30年前の旧ソ連解体の影をちらつかせます。
旧ソ連の経済規模は、解体当時すでにスペインやブラジルと同程度の、世界で10位に入るかどうかくらいの小さなものだったため、その解体が特に世界経済に大きな影響を与えることはありませんでした。
しかし圧倒的な世界第2位の経済大国の社会・経済が混乱すると、一時的とはいえ世界経済にかなりの悪いインパクトが加わってしまう可能性は否めません。
ほとんど起きる可能性はないものの、一度起きると大きなショックが起きるもののことをテイル・リスクと呼びます。
テイル・リスクが突然発現すると、さすがに長期投資をしようと思っている方でもびっくりしてしまうかもしれませんが、先に「こんなことも起きるかも」と考えておくと、実際にそれが起きても1割くらいは驚きを緩和できるかもしれません。
これから20年間の世界経済を考える際に、何が次の成長ドライバーになりうるか、テイル・リスクはどんなものがあるか、ぜひ他にも探してみてください。