米国はGDP増加、金融緩和によって格差が広がる

100年に1度の危機と呼ばれたリーマン・ショックから11年が経つ。

米商務省経済分析局の公表データによると、米国のGDPは2009年の14.4兆ドルから2018年の20.6兆ドルへと約42%増加した。ニューヨーク株式市場のダウ平均株価も2009年初の9,034ドルから2019年8月末の26,403ドルへと上昇している。

多くのエコノミストが指摘しているように、米連邦準備制度理事会(FRB)による強力な金融緩和が大きな追い風となったと言えよう。

一方で、米国政治を見ると対中貿易摩擦、移民規制など何かと騒がしい。米国経済が約10年間にわたり好調に推移してきたにも関わらず、なぜ政治は騒々しいのだろうか?

この背景にはもちろん様々な要因が働いている。トランプ大統領の登場にその原因を見出す読者も多いだろう。だがここで注目したいのは、経済危機から回復する際の強力な推進力だった金融緩和によって、持てる者がさらに富み、持たざる者との格差が広がったことだ。

それを如実に物語っているのが下記の図である。株価と被雇用者の時間当たり平均賃金について2009年1月を100と置いて推移を見ると、株価が約300にまで上昇している一方で被雇用者の時間当たり平均賃金は27しか増えていない。つまりこの10年間で持てる者の資産価値は、持たざる者の収入よりもはるかに上昇したのである。

【図表1】ダウ平均株価と時間当たり平均賃金の推移
出所:筆者作成

1929年の世界大恐慌後の政治動向に酷似する

格差が拡大すると、とにもかくにも持たざる者たちが政治に対して不満を表明する。そして、経済グローバル化や移民に制限を加える自国第一主義を唱え、反グローバリズムに突き進むことになる。このような現在の状況は、1929年に世界を襲った大恐慌の後の政治動向と3つの点で酷似している。

1つ目は、関税の引き上げである。トランプ大統領は2018年3月に1962年通商拡大法232条に基づき鉄鋼とアルミニウムの輸入制限を発動し、2018年7月からは1974年通商法301条に基づいて対中関税引き上げを実施した。大恐慌後も、スムート・ホーリー法が成立し、国内産業保護のために農産物のみならず工業製品を含めた多くの品目で輸入関税が大幅に引き上げられている。

2つ目は、移民規制である。トランプ大統領は厳格な移民政策を提唱し、不法移民の一斉摘発を実施した。メキシコ国境の移民流入に対応するために壁を建設するとも主張している。大恐慌後も、移民が厳しく制限され、約200万人が米国からメキシコに送還されたと推計されている。

3つ目は、自国第一主義である。中国の習近平国家主席は「太平洋には中国と米国を受け入れる十分な空間がある」と発言し、太平洋を米国と中国で二分しようとする膨張政策を示唆した。1930年代には日本がアジアで膨張政策を進め、米国が対日経済制裁として石油の禁輸や在米資産凍結を行っている。

1929年の12年後、日本が真珠湾を攻撃したが…

FRBのグリーンスパン元議長が2008年のリーマン・ショックを受けて「100年に1度」と発言した際に比較対象としていたのは、まさにこの1929年の大恐慌であろう。来年の2020年がリーマン・ショックの12年後となることから、1929年の12年後の1941年を振り返ってみると、石油の禁輸措置などによって困窮した日本が真珠湾を攻撃している。

おそらく中国が2020年に米国を攻撃することはないだろう。だが、ペンス副大統領が非難したように、中国政府は政治、経済、軍事的手段とプロパガンダを用いて米国に対する影響力を高めており、米中の覇権争いが続いていく確度は高い。

したがって、もし米国が覇権争いの過程で保護主義的な政策を継続するのであれば、貿易、投資の減少、生産活動の低下などによって長期的な景気の停滞が起こる可能性が高いだろう。

 

コラム執筆:重吉 玄徳/丸紅株式会社 丸紅経済研究所