「面子を重んじる」中国人の価値観

中国人の気質を語る上で良く聞かれるのが、「面子を重んじる」です。

若年層ではかなり変化してきたとも言われますが、典型的な例では「割り勘」が好まれません。そのため例えば友人同士の会食ですと、ある時は誰かが奢り、次の機会には別の誰かが奢るということがよく行われます。

中華料理店での宴会となれば「円卓」がお約束ですが、一番奥の中央、日本の感覚であれば主賓席となる席には、中国では宴会の主催者(ホスト役)が着席するのが一般的です。宴会に客を招待し、喜んでもらうことで面子が保たれ、「鼻が高い」という訳です。

貧困にあえぐ農村部で子の結婚式に無理な出費も

懐にゆとりがあれば豪華な宴会も「どうぞどうぞ」となるところですが、所得水準が低く、人々が貧困にあえいでいる農村部でも「面子を重んじる」風潮が見受けられます。例えば、子の結婚などの機会に無理な出費をしてしまい、その後、家計がさらに苦しくなるという悪循環も頻発しており、こうした事象を中国政府は農村部発展の妨げになるとして問題視しています。

中国政府が農村部で毎年行っている調査によると、家計支出の最大項目は食費で、その次に大きいのが冠婚葬祭費なのだそうです。

地域によっては、住民たちが華美な宴会や催しを開催してその豪華さを競ったり、経済的に余裕の無い家庭の新郎が新婦の家の風習に抗えず、婚礼の席で多額の出費を行ったりした結果、さらに貧乏になるといった悲劇的な状況も生じています。

事態を改善すべく、国務院は中国政府の他の部門や地方政府に、農村地域の活性化のためのガイドラインの作成を求めました。内容は、伝統的な美徳の尊重、華美な冠婚葬祭など悪しき伝統の撲滅、社会秩序の維持向上と汚職の撲滅、公共サービスの充実など多岐に渡ります。

北京市に隣接する河北省のある地域では、地方政府が冠婚葬祭の簡素化のために奮闘しています。
265ある村のそれぞれで、婚礼や葬儀の規模、会の段取り等についての基準を設けたそうです。依拠すべき基準がはっきりしていれば、周囲との比較や競争も避けられるという訳です。

婚礼や葬儀が催される時には、地方政府の担当者が基準を守っているかどうかチェックするそうです。いささか窮屈な感じはしますが、これらの施策により冠婚葬祭費の支出額は大幅に減り、住民からも好評とのことです。

一部ではとんでもなく豪華な演出の宴席が人気

私は中国で結婚披露宴に出席したことはないのですが、友人の話を聞くと、とんでもなく豪華な宴席も少なくないそうです。

日本でもバブル期の結婚披露宴と言えば、「ゴンドラ」や「スモーク」に「キャンドルサービス」など華美な演出が目立ったものですが、最近では節約志向でかなり簡素化が進んでいるようです。また、「式や披露宴は挙げない」という新婚カップルも増えていると聞きます。

一方、中国の一部の豊かな家庭では豪華な宴席が人気で、新婦がまるで大女優ででもあるかのような(歯の浮くような?)演出も少なくないようです。懐が潤えば婚礼にもお金をかけたいというのは、かつての日本、そして今の中国に共通です。

身の丈を超えた支出で家計が苦しくなるのは論外ですが、人生の大事な節目にできる限りのお金をかけたいという心情も理解できます。見栄張り競争、面子競争が収束し、妥当なレベルで落ち着いてくれることを願いたいと思います。