7月30日および31日の米連邦公開市場委員会(FOMC)において、米国はそれまでの段階的な利上げから利下げに舵を切りました。

その政策決定後の記者会見でパウエルFRB議長が「長期にわたる一連の利下げではない」との発言したことに対し、トランプ大統領が失望を表明しています。それより、市場は9月以降の追加利下げを織り込む動きを見せています。

為替市場、特に米ドル/円は2017年の年頭以降、2年半超にわたって概ね105~115円の10円幅で比較的安定した値動きを続けてきましたが、ここにきて水準の変化を指摘する向きも少なくありません。そして米ドル/円が円高進行すれば、新興国通貨はより円高に振れるとのイメージが定着しているように思われます。しかし、それは本当に事実といえるでしょうか。

新興国通貨を「エマージング通貨」と「フロンティア通貨」に分けて考える

一口に新興国通貨と言っても実際には様々な通貨があります。そこで本稿では新興国通貨を以下のように「エマージング通貨」と「フロンティア通貨」に分けて考えていきます。

エマージング通貨

世界銀行が公表する1人当たりGNI(国民総所得)に基づく国別分類で「高位中所得国」に分類される国の通貨

フロンティア通貨

世界銀行が公表する1人当たりGNI(国民総所得)に基づく国別分類で「低位中所得国」および「低所得国」に分類される国の通貨

ここで一例として、当社の取扱い通貨を含め複数の新興国通貨をこの「エマージング通貨」と「フロンティア通貨」に分類すると以下の通りになります。

出所:世界銀行のデータを元にクラウドクレジット作成

対円でドルとは異なる動きを見せるエマージング通貨、フロンティア通貨

それではこの分類に基づいて、対円でのドル、エマージング通貨、フロンティア通貨の直近1年間のパフォーマンス(金利を加味した為替トータルリターン)推移を比較してみましょう。

出所:Bloombergのデータを元にクラウドクレジット作成

表の見方:
・灰色の線:ドル
・青色の線:エマージング通貨
・オレンジ色の線:フロンティア通貨
・黄色の線:すべての通貨(※)に均等分散した全平均
 (※)ドル・エマージング各通貨・フロンティア各通貨

ドル、エマージング通貨、フロンティア通貨の3つを比較すると、まず青色の線のエマージング通貨の振れ幅の大きさに目が向くかと思います。これはエマージング通貨の中でもトルコ・リラの値動きにとくに大きな影響を受けています。

次におそらくフロンティア通貨こそ最も激しい振れ幅になると予想された方が大半ではないかと思いますが、意外なことにドル以上に安定しています。これはフロンティア市場がまだ未成熟であるが故に取引参加者が少なく、結果的に相場変動が抑えられたからです。

しかしながら、ここで最も注目していただきたいのは、事実としてエマージング通貨、フロンティア通貨ともに必ずしもドルのパフォーマンスに連動するわけではないということです。

最後に、これを踏まえて全平均を示す黄色の線に着目していただくと、やはり安定したパフォーマンス推移になっていることが見て取れます。

このように米ドル/円が円高に振れやすいと考えられている時こそ、ドルとの連動性が低いエマージング通貨やフロンティア通貨に目を向けて通貨分散の徹底を図ることが重要といえるでしょう。