日本をはじめとする先進国が軒並み低金利のなか、「新興国通貨への投資は高金利が魅力!」とはしばしば使われる宣伝文句です。しかしながら、せっかくの高金利も為替が円高に大きく振れてしまえば、場合によっては円建てで元本割れとなるおそれもあります。そこで今回は、このような事態に陥るのを避けるために新興国通貨の適切な投資方法について考えていきます。

高金利の新興国通貨が円高に振れやすい理由

そもそも新興国通貨はなぜ円高に振れやすいのでしょうか。

端的に言ってしまうと、新興国の多くは経常収支が赤字だからです。

経常収支とは、外国との貿易や証券投資による収益等の収入と支出の差のことで、収支がプラスであれば経常黒字、マイナスであれば経常赤字となります。

為替レートは2国間の通貨の需給で決まると言われています。ある国や地域が経常黒字である場合、その国は外貨を稼いでいることになります。そのため、稼いだ外貨を国内で使用するにあたって自国通貨に振り替える需要が高まり、自国通貨高になりやすいメカニズムが働きます。一方、経常赤字である場合は、これとは逆の流れが生じて自国通貨の供給が高まり、自国通貨安になりやすいというわけです。

ここでは、一例として日本と当社ファンド(過去実績含む)の貸付先相手国(新興国)の経常収支を見てみましょう。

出所:IMF-World Economic Outlook Databasesを元に筆者作成

上のグラフにあるように、日本とロシアのみが経常黒字、それ以外の新興国はすべて経常赤字です。さらに言うと日本が図抜けて経常黒字となっているのがわかります。これが長期的に円高へ振れやすい要因となっているわけです。

とはいえ、上のグラフはあくまでも一時点の経常収支を並べただけにすぎません。為替レートと経常収支の相関を見るためには、為替レートが時々刻々と変化するのを追うように、各国の経常収支についても時系列で黒字額や赤字額の増減、黒字転換や赤字転換などを定点観測していく必要があります。

為替レートは経常収支だけで判断できるほど単純ではない

また、為替レートは経常収支だけが決定要因となるほど単純ではありません。

たとえば、為替レートの決定要因の1つとして実質金利が取り上げられることも多くあります。

実質金利とは、政策金利や長期金利といった一般に表示される名目金利からインフレ率を差し引いた、文字通りその国の実質的な金利のことです。

2国間の実質金利を比較して低金利の国の通貨から高金利の国の通貨へ資金が流れる、つまり低金利の国の通貨は安くなり高金利の国の通貨は高くなるというメカニズムが働くというわけです。

それでは先ほどと同様、日本と当社ファンド(過去実績含む)の貸付先相手国(新興国)の実質金利を見てみましょう。

  出所:CEIC、IMF-World Economic Outlook Databasesを元に筆者作成

上のグラフにあるように名目金利、実質金利ともに日本のみマイナス、新興国は大小あれども名目金利、実質金利ともにすべてプラスとなっています。

この点からすると、日本のようなあからさまな低金利の国の通貨から新興国のような高金利の国の通貨へと資金が流れる、つまり円安に振れやすいという結論が出ます。

ただし、新興国はインフレ率が相応に高いため、名目金利の差ほど実質金利に差がつかないというところは見逃すことのできない点ではあります。

ここでも、先ほど経常収支のところで申し上げたのと同様、為替レートが時々刻々と変化するのを追うように、各国の実質金利についても時系列で名目金利やインフレ率の変化に目を配りながら定点観測していく必要があるということです。

新興国通貨も分散投資の徹底「全張り」を!

ここまで見てきて「そんなに時間と労力をかけて為替レートの先行きを見通すなんてできない…」と思われた方も多いかもしれません。

さらに言うと、定点観測を重ねたとしても、必ずしも為替レートの先行きを必ず見通せるとは限らないのも事実としてあります。

そこで現実的な方法として考えられるのが、為替レートの先行きは見通せないものと割り切り、ご自身の余裕資金の範囲内を前提として、できる限り多くの通貨への分散投資を徹底する、理想とするところはあらゆる通貨に分散投資する「全張り」です。

新興国と一口に言っても、経済や政治の情勢が同じではありませんから、たとえば新興国の全通貨が同時に大暴落するなどというのは、確率ゼロではありませんが相当低いと言えます。

これを前提とすれば、分散投資を徹底させておけば、仮に1つの通貨が大暴落してしまうことがあっても、それによって生じる損失をその他の通貨の利益で相殺することも期待できるわけです。

この分散投資の徹底「全張り」を基本に据え、より多くの方が新興国通貨への投資を通して、リスクに見合ったリターンを享受していただければ幸いです。もちろん、くれぐれも余裕資金の範囲内であることを忘れずに。