3年ぶりのアフリカ開発会議が横浜で開催
2019年8月28日~30日にかけて、第7回アフリカ開発会議(TICAD7)(※1)が横浜で開催される。アフリカの開発をテーマとするこの国際会議は1993年に日本政府主導で始まり、前回(TICAD6)は2016年にケニアのナイロビで開催された。
TICAD6では、アフリカへの取り組みに関する基本合意書(MoU)が官民合わせて73件締結されるなど、日本のアフリカへの高い注目度合いが確認できるものであった。日本とアフリカの関係深化を象徴するイベントを控え、改めて2016年以降のアフリカを取り巻く状況と注目点について確認する。
経済は最悪期を脱する
2016年前後のアフリカ経済は逆風にさらされていた。特に2016年は、資源価格の下落継続を背景にナイジェリア、南ア、アンゴラといった経済大国の経済が低迷した結果、サブサハラの成長率が1994年以来の1%台に落ち込み、北アフリカを含めたアフリカ全体でも2%台に減速した。
資源輸出に依存していた国を中心に、直接投資(FDI)が伸び悩んだほか、外貨不足により資本財や原材料の輸入が滞り、国内での経済活動が停滞、通貨の下落に伴う輸入インフレにより個人消費が鈍化したことが景気低迷の大きな要因となった(図表1)。
もちろん景況感には地域差があった。2016年前後も、北アフリカではクーデターを経て政治的に安定しつつあったエジプトで、IMFの支援もあり景気回復がみられ、サブサハラでは非資源国である東アフリカのケニアやエチオピア、西アフリカのコートジボワールなどで相対的に堅調さを維持していた。しかし、ナイジェリア、南ア、アンゴラを中心に全体として停滞感は否めない状況にあった。
2017年以降、原油価格の持ち直しなどを背景に資源国は総じて最悪期を脱したものの、2018年に入ると、今度は米国を中心とした先進国で金融緩和正常化の動きがみられ、金利差を背景とした資金流出圧力にさらされることとなった。2016年~2017年はFDIの流入額が減少し、2018年は3年ぶりに増加に転じたものの2017年には及ばない水準にとどまり、アフリカへの関心が若干低下してしまった可能性がある(図表2)。
2019年以降、持ち直すものの勢いは弱い
3年ぶりのTICADを控えた2019年の経済動向について、総じて2016年に比べて景気は改善しているといえよう。天候に左右される農業生産や、資源などの価格に左右される経済構造は大きく変わらないものの、IMFでは2019年3.5%、2020年3.7%と緩やかな回復傾向を見込んでいる。
リビアやスーダン等、一部で政情が不安定な国があるものの、2019年前半にはナイジェリア、南アで大統領選挙を終え、政治イベントを消化した点は経済活動にとってプラスといえよう。
一方、米中通商摩擦を背景に、中国や先進国で景気の減速がみられるなか、アフリカのみが堅調に成長を加速させることは期待しづらい。景気の減速懸念に伴い、米国や欧州の金融政策が引き締めから緩和にシフトしつつある点は下支え材料であるものの、中国の減速による世界経済やアフリカ経済への影響には注意しておく必要がある。
期待される域内統合の進展
先進国、中国が減速するなか、アフリカが持続的な成長を続けるために、域内貿易・投資の活性化に改めて注目が集まっている。アフリカ域内には既に地域共同体(RECs)が多数存在し(図表3)、関税障壁・非関税障壁の除去、経済連携の強化が目指されているが、今年5月に発効したアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)協定(※2)は、域内貿易活性化に向けた大きな一歩として注目されている。
AfCFTAでは物品関税の9割削減、2022年までの域内貿易額5割増加などが掲げられるが、いうまでもなく、実現には課題が多く一筋縄ではいかないであろう。しかし、世界経済の減速や大国間の通商摩擦激化が懸念される中、AfCFTAへの関心と期待はますます高まっている。
加盟国の経済格差、通商のためのインフラ不足、人的移動の難しさなど、実効性を伴うために解決すべき点が山積しているが、例えばビザ無しでの各国間往来可能比率は、2016年の20%から、2018年の25%と徐々に改善するなど(※3)、一歩一歩、大経済圏の実現に向けた動きも確認できている。
スタートアップ投資に注目
もう一点注目すべきはスタートアップへの関心の高まりである。世界的にスタートアップやエコシステムが注目され資金が集まる中、2018年にアフリカのスタートアップがベンチャーキャピタルから調達した資金は前年比+258%の約7億2600万ドル、案件ベースでは約2.3倍の458件に上った(※4)。
スタートアップに注目が集まる理由として、アフリカでは産業の集積が不十分であるがゆえ、既存産業とのしがらみが少なく、同時に政府による規制も整備途上であるため、スタートアップが挑戦しやすい環境であるとの指摘がある。
この状況に日本企業も注目しており、JETROは「これまで市場のデータがほとんど存在せず、アプローチが難しかった。ところが、ビッグデータ革命の波がアフリカにも押し寄せたことで、日系企業にも新たな参入の可能性がもたらされている」と分析している。
「域内統合×スタートアップ」で課題解決の可能性
勿論、拡大しつつあるとはいえ依然としてアフリカのスタートアップ投資の規模は小さい(※5)。ただし、タンザニアでのキオスクとIoTを活用した電力サービスの提供や、ルワンダでのドローンによる医療品配送システムなど、既に活用されているサービスは多くある。
社会課題が多いアフリカならではの、爆発的な需要拡大が期待される分野が多数存在している。そこに着目するスタートアップの挑戦を活用することで、域内統合による経済連携を実現するうえでボトルネックとなっているインフラ不足を克服できる可能性がある。
足元のトレンドを踏まえ、来るべきTICAD7にむけて、「域内統合×スタートアップ」の視点でアフリカでのビジネス拡大の可能性を検討することも興味深いであろう。
(※1)Tokyo International Conference on African Developmentの略。1993年に日本が立ち上げたアフリカ開発に関する首脳級の国際会議であり、TICAD5(2013年)までは5年毎、TICAD6(2016年)からは3年毎に開催されることとなった。
(※2) African Continental Free Trade Area(AfCFTA)は2018年3月のAU臨時総会で44ヶ国が協定に署名し、その後8カ国が追加で署名。2019年4月に発効に必要な要件を満たし、5月30日に発効した。アフリカ連合(AU)の全加盟国が参加した場合、人口12億人、経済規模2兆5000億ドルの大自由貿易圏が成立する構想であり、7月7日のAfCFTA臨時サミットで正式な発足が予定されている。一方、国内経済への影響を懸念し、サブサハラ最大の経済大国であるナイジェリアのほか、エリトリア、ベナンが署名を見送っている。
(※3)AfDB ”Africa Visa Openness Report 2018”より。ビザ無しでの往来可否、アライバルビザでの入国可否などを総合的に判断。アフリカ各国からビザなしで訪問できる最も開かれた国として、セイシェルに続き、2018年はベナンも同率1位に上昇。
(※4)南アフリカ共和国WeeTracker “ 2018 venture investment report” より。分野別では、中古車売買電子商取引サイト、モバイル決済システム、オフグリッド太陽光パネル販売など、アフリカの課題解決につながるビジネスモデルにおいて大型の資金調達が行われた。
(※5)共通基準での比較は難しいものの、2018年には、米国:1,570億ドル、中国 1,110億ドル、インド 385億ドル、英国227億ドルが調達されたとのデータがある(YoStartups“Global Startup Funding Summary for 2018”)。日本で2018年に調達された資金は3,848億円(ジャパンベンチャーリサーチ)とのデータがある。
コラム執筆:常峰健司/丸紅株式会社 丸紅経済研究所