◆娘が中等科に進んで初めての運動会があった。初等科から大学までエスカレーター式の学校なので、運動場も学友たちも初等科の時と同じで代わり映えしない。しかし変わったこともある。まず写真やビデオの撮影が禁止であることだ。小学校や幼稚園の運動会では、写真やビデオの撮影はお父さんの重要な役目だった。上手に撮れないと奥さんや子供から叱られる。少しでもベストポジションを確保しようと熾烈な戦いがあったものだが、もうそんなことはなくなった。考えてみれば中高合同の運動会だから女子高生もいるのだ。撮影はNGで当然だろう。そして運動会が行なわれるのは平日である。まるでお父さんたちは来るなと言わんばかりだが、撮影禁止と同じ理由で、それも納得できる。

◆ところが平日にもかかわらず、結構、お父さんたちが見に来ているのだ(かく言う僕も行ったわけである)。うちの学校だけが特別なのかと思いきや、そうでもないらしい。日経新聞夕刊の「あすへの話題」で経済学者の松井彰彦先生が書いていた。高校生の娘さんと仲が良く、朝は一緒に出かけ週末は腕を組んでデートに行く。奥様が友人に話したら、「絶滅危惧種ね」と言われたことに対して、「いや、むしろ新種に違いない。」先生のマンションでは、女の子たちは毎朝、お父さんと出かけるし、平日に行う運動会にもお父さんが大勢来る、という。これが現代の新・お父さん像なのだろうか。

◆国連児童基金(ユニセフ)が子育て支援策に関する報告書を発表した。給付金などの支給制度を持つ出産休暇・育児休業期間の長さでは、日本の男性は30.4週相当と調査対象国(OECDとEUいずれかの加盟国41カ国)のなかでダントツの1位だった。ところが、日本男性の育休取得率はわずか6%とこれまたダントツに低い。ユニセフ報告書は、日本男性が育休を取得しない理由として(1)職場の人手不足(2)育休を取得しづらい社内の雰囲気などを挙げたが、腑に落ちる。育休明け直後に不当な人事異動を受けるケースなども報告されている。制度はあるが活用されない。そういうことが、この国では非常に多い。これでは働き方改革も進まず、生産性も上がらない。

◆しかし、もう一歩のところまで来ていると思う。職場環境のことである。なにしろ平日の運動会にお父さんが大勢来る時代だ。中高生のお父さんと言えば、育休を取りたい社員からみれば上司に当たる年齢だろう。上司が平日、娘の運動会を見に行くなら、部下だって大手を振って育休を取ればいい。育児は本当に大変だ。その大変な務めにお父さんも積極的に関わるべきだ。もっともお父さんには育児が終わっても、まだ大変な務めが残っている。幼稚園、小学校のビデオ撮影という大役である。