筆者の地元香港では、逃亡犯条例に反対するデモが6月9日以来続いており、毎週日曜日になると1回目は100万人、2回目は200万人、そして香港の中国への返還記念日の7月1日は立法府建物(日本の国会議事堂にあたる)を反対派が占拠した。7月最初の日曜日である7日には中国本土からの観光客が多い九龍側に香港島から場所を移し、23万人が参加したそうだ(上記数値はいずれも主催者側発表数値)。

さて、このように政治情勢に揺れる香港であるが、経済メディア各社では「国際金融都市香港の地位が危ぶまれている」「香港のライバルであるシンガポールは漁夫の利を得る」「上海に香港は取って代わられる」との記事が散見される。

そこで筆者は、「果たして本当に香港は国際金融都市としての地位を失うのか?」を再考してみることにした。

「世界金融センター指数」第3位香港の「政治の安定性」

イギリスのシンクタンクであるZ/Yen Groupが、今年も「世界金融センター指数(The Global Financial Centres Index,GFCI)」 における世界ランキングを発表した。

これは世界112の金融センターと言われる都市を、以下の主要な5つの要素(詳細には133の要素)で分析し、1,000点満点で点数化して最終的なスコアリングをして順位を決めるものだ。

1.ビジネス環境(政治の安定性・マクロ経済環境、税金面からみた取引コスト等)
2.人材(フレキシブルな人材市場、プロフェッショナルの質等)
3.インフラストラクチャー(テクノロジーインフラ等)
4.国際金融市場としての成熟度(市場の流動性等)
5.一般的な街としての評判(文化・ダイバーシティ等)

世界一の座はニューヨークが不変の地位を築き、ロンドンは2016年にブレグジットが発表されて以降現時点でも混迷を深めているが、依然として世界第2位の地位を維持している。

ブレグジット後、ヨーロッパの金融センターとして期待のかかるフランクフルトは、昨年同様の10位(欧州の中ではロンドンに次ぐ第3位)のままである。

そして、我が街香港は、ロンドンについで世界第3位であり、世界三大金融センターとしての一角を維持している。ロンドンとの差はわずか4ポイント差である(ロンドンは787点、香港は783点)。

シンガポールは、2018年9月の前回発表時より3ポイントアップで香港に迫ってきているが依然として香港に11点差で第4位。東京は756点で上海の後塵を拝して第6位である。

香港が高得点を稼いでいるのは、上記5要素のうち「人材」「インフラストラクチャー」の2点が世界ナンバーワンという評価である。残り3要素のうちビジネス環境ではシンガポールに後塵を拝して第4位であるが、残り2要素は第3位である。

ビジネス環境の評価項目にはPolitical Stability=政治の安定性が含まれており、元々香港は政治安定性についてはシンガポールより低いと見られている可能性がある。ただし、政治が安定している日本の首都東京は、残念ながらビジネス環境がかなり低い9位であることから、税金面のコストの高さが嫌われているのであろうと想像される。

香港の国際金融センターとしての地位は簡単に揺らがない

Z/Yenグループの調査結果が全てを表しているとは思えないが、金融市場の1つのバロメーターではある。しかし、証券市場を見てみると、香港はシンガポールに対して時価総額・上場企業数・IPO件数・新規調達規模等の数値(※)が3~5倍以上の市場の厚み・規模があるのがわかり、定量的にも香港の優位性が確認できる。

世界の政治環境が目まぐるしく動く中で、香港の政治体制の基本である1国2制度は大きく揺れ動いているが、話が「金融」となると「政治」の安定性は1つの重要な要素ではあるが、必ずしもそればかりではないとわかる。

国際金融センターとしての地位は前述のように多種多様な要素が絡み合い、その都市の優位が確立されている訳であり、その地位は簡単には築くことはできないが、逆に一旦築きあげられた地位は、簡単に揺らぐものではないことがわかる。

確固たる地位を築いた国際金融センターの重要性をよく勉強・研究・そして理解している北京中央政府が簡単には手放さないであろうと筆者は見ている(これは前回のレポートの結論と同じである)。

日本に金融市場の国際化に向き合う姿勢はあるか

翻って、我が母国「日本」は7月の参議院選を前に自公の改選過半数が予想され、政治的な安定が謳われている。太田康夫氏著「没落の東京マーケット 衰退の先に見えるもの」(日本経済新聞出版社)を読むまでもなく、アジアナンバーワン金融市場=東京は、今となっては「昔話」となってしまった。

政治の安定が好ましいことであるのは論を待たないが、一国の経済の血流である金融市場の国際化に向き合う姿勢が、令和元年参議院選の与党選挙公約にどこにも見当たらないのは寂しい限りである。

 

(※)World Federation of ExchangeのStatistics2018年12月末現在、新規資本調達市場としては2018年NYSEを抜いて世界一。