2025年までに「世界の製造強国の仲間入りを果たす」

中国政府は、2015年に政策目標「中国製造2025」を発表しました。2025年までに「世界の製造強国の仲間入りを果たす」とし、最終目標として、中華人民共和国建国100周年となる2049年までに「製造大国としての地位を固め、総合力で世界の製造強国のトップクラスに立つ」としています。

目標達成のために5大プロジェクトと10大重点発展分野を定め、次世代情報通信技術、航空・宇宙、省エネ、新素材、バイオ医薬などの研究開発に力を入れるそうです。

AI(人工知能)も政府が重視する領域の1つです。研究開発を進めるために必要不可欠なのが人材ということで、このほど政府の教育部(日本の文部科学省に相当)は、今年9月新入学の大学学部生を対象に、全国35の大学で、AI関連の分野を専門に学ぶコースを設けると発表しました。
35大学の中には、情報通信の分野で有名な北京交通大学など、多くの有力大学が含まれています。

北京交通大学は、2017年の12月にAI研究所を設立し、現在大学生が研究を行っているのですが、9月には約30名の大学1年生を受け入れる予定です。同大学の副学長は、AI専攻が成功するようであれば、今後他の分野を専攻する学生の受入も考えたいと述べています。

AI人材の争奪戦、給与水準は平均的な大卒生の3倍以上に

中国では既にAIのブームが起こっており、優秀な人材の奪い合いの様相を呈しています。特に大学院生は、在学中から企業が囲い込みを行い、修了後そのまま就職するケースが多いそうで、1年目から年収は30万元(約500万円)以上と、平均的な大卒生の3倍以上の給与水準に達しています。

中国はAIの分野で先頭を走る米国を追いかけており、基礎研究の分野ではかなりの実績を挙げているものの、技術の応用や製品開発の領域ではまだ劣後していると見られています。そのため、大学が教育研究に力を入れ、優秀な人材を産業界に送り出すことへの期待は、極めて大きなものがあります。

政府が重視している分野ですので、今後予算も潤沢に投入されることが期待され、学生の人気も高まることが予想されます。今回の35大学が研究ならびに人材育成で成果を挙げれば、さらに多くの大学で、AIを学ぶ学生が増えることでしょう。まずは2025年に向けての動きに要注目です。

人口世界一の中国から「突き抜けた人材」が輩出される

私の出身大学では、北京の有力大学である清華大学(習近平主席の出身大学でもあります)と、大学院生の交換留学プログラムを実施しており、毎年7名程度が清華大学で研究に従事しています。先日、学生4名と一緒に食事をしたのですが、彼らは皆「中国人学生の能力にはバラつきがあるが、中にはとんでもなく優秀な学生がいる」と言います。

芸術やビジネスの分野でも同様ですが、人口が多く、ベースが広いだけに、「突き抜けた人材」も輩出するという訳です。ここでも、人口世界一の中国の力を感じさせられてしまいます。

日本の大学、研究機関も努力を重ねているとは言え、人材の絶対数で太刀打ちするのは困難です。
科学技術分野での人材育成とそのための費用負担をどのように考えるのか、課題を突き付けられているように思います。