みなさん、こんにちは。『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。令和元年の株式市場は、実に7日続落という厳しいスタートとなりました。
その主たる要因は今回テーマに取り上げる貿易問題にもあると言えるのでしょう。これまでなんとなく正しいと思っていた認識、つまり世の中は自由貿易の流れにある、冷戦構造や保護主義政策、自国利益第一主義などは過去のものである、といった「常識」が通用しなくなってきたこととも無縁ではないように思えます。
株式市場がこれらの影響を見極めるのにはまだしばらく時間を要するのでしょう。こういった変化の是非の判断はここではしませんが、明らかにこれまでとは違う視点で政治や経済を俯瞰しておく必要を強く感じています。
世界経済への影響が避けられない関税引き上げ
さて今回は、先週から株式市場に強烈なインパクトを与えている「米中貿易摩擦」をテーマとして採り上げます。
そもそもこのテーマは、不安要因としてこの1年間常に注目され、その進展に世界の株式市場は神経質な展開を余儀なくされてきました。昨年12月以降は追加関税引き上げの延期協議から株式市場も小康状態にあったのですが、ここにきて事態は暗礁に乗り上げた印象が拭えません。
これまでに実施に至った関税引き上げは3回あり、既に米国は2500億ドル分の対中輸入品に対して25%の関税を課すこととなりました(それまでの関税率は10%以下)。中国側も対米輸入品に対して対抗関税を設定しているのですが、対象輸入金額は1100億ドルにとどまっており、十分に対抗しきれていないというのが現実のところでしょう。
先週、米国は残る3250億ドルの対中輸入品にも関税引き上げを通告し、中国も直ちに残る600億ドルの対米輸入品への対抗関税方針を明らかにしました。これを契機に世界の株式市場では一気に不安定さが増すこととなったのです。
既に一般に指摘されている通り、関税引き上げがこのまま発動となれば、世界経済への影響は避けられません。米国では中国製品における関税分の価格上昇が消費の重石となりかねないうえ、対中輸出では関税による競争力低下が予想されます。
一方、中国では米国市場における価格競争力維持のための価格引下げ圧力の増大、関税回避に向けての国外工場建設などによる空洞化、そしてそれらに伴う中国景気の減速などが懸念されます。
さらに、第三国でも、米国・中国の景気への逆風が輸出に影響を与えるのに加え、中国を生産拠点としている企業は中国国外への生産シフトとそれに伴うサプライチェーン再構築が求められることになるはずです。三者全員が痛みを伴うことになるのでしょうが、その中でも特に中国の被る痛手は大きいように思えます。
この米中対立構図は長期に渡るとの観測も広がっており、自由貿易を目指す方向にあったこれまでの流れが逆回転し始めたと指摘する声もあります。少なくともそのリスクは無視できなくなってきたと言えるのかもしれません。
設備投資関連分野にビジネスチャンスが生まれる
ただし、筆者はこういった変化においてもポジティブな要素はあると見ています。まず、関税の影響抑制を狙った生産拠点の再配置やサプライチェーンの再構築においては、設備などへの資本投資面でビジネスチャンスがあることです。
そもそも工作機械や製造装置などのマザーマシンや部品・部材・素材という分野では、日本企業は世界的にかなり有力なポジションにあります。特に厳密な品質管理が要求されるハイテク領域では、日本製品のサポートが不可欠という局面も少なくありません。当然ながら、新たな資本投資があれば、日本企業が活躍できる機会は少なからずあると考えます。
短期的には関税引き上げによる悪影響を株式市場は織り込んでいくのでしょうが、徐々にその次のステップとして、こういった新たな設備投資関連分野に市場は注目を始めるのではないか、と予想するのです。
そして、より長期的には新しいシステムの構築が業務の抜本的改善を促進する契機となるでしょう。これは中国企業にも当然当てはまるのですが、何がしかの困難が生じれば、必ずブレイクスルーする知恵や仕掛けが出てきて、抜本的な改善を実現する、というものです。
過去を振り返ると、日本でも自動車産業や電機産業、鉄鋼産業などで同様の貿易摩擦問題に直面したケースは何度もありました。では、それによってそれら日本の産業はどうなったかというと、そういった困難を契機に企業の抜本的な体質改善を断行し、むしろ今では世界に冠たるトップブランド企業を作り上げることに成功しています。
体質改善は強烈な痛みと相応の時間に加え、粘り強い従業員の努力と地道な技術開発などが寄与した成果なのですが、困難をチャンスに変えた実例はかなりあるのです。
もちろん、その過程で企業間に明暗が分かれたのも事実ですが、困難の突破が結果的により強靭で合理的な企業を輩出させたことは確かでしょう。例えれば、貿易摩擦は大きな波と言えるのかもしれません。波が引いた後には、次の時代をリードする企業が残っているということになっていると考えます。