中国経済の減速や米中貿易摩擦が徐々に世界経済に暗い影を落としつつある中で、日本の一部企業も業績予想の下方修正を余儀なくされている。本稿では、日本よりも中国の影響を受けやすい台湾の政治・経済の動揺を取り上げる。日本経済をより俯瞰的に見る一助になればと思う。

台湾のマクロ経済動向:財政出動や公的企業の投資頼みの成長か

2018年10~12月期の実質域内総生産成長率は、前年同期比+1.8%(2018年7-9月期同+2.4%)にとどまった。当局は、2019年1~3月期も同+1.8%にとどまると予測している。

2018年の訪台客が過去最高を記録し、内需は底堅く推移しているものの、経済成長率が同+3%台を記録していた2018年上半期を過ぎてからは、減速感が顕著だ。特に、純輸出による押し下げが目立つ。

一方、鉄道や発電所建設などのインフラ分野を中心とした、公営企業による総固定資本形成は前年同期比20%以上伸びている(※1)。しかし公営企業による投資も含め、財政などでの押し上げには限界があるため、総固定資本形成の伸びは持続的ではない。したがって、台湾経済がさらに減速する可能性は否定できない。

【図表1】台湾の実質域内総生産成長率推移(NTDベース)
出所:行政院主計総処より丸紅経済研究所作成

台湾の輸出動向:中国向け輸出が減少し、4ヶ月連続で前年同月を下回る

2018年の台湾輸出の対域内総生産比は約56%と、日本(2018年輸出対GDP比は約15%)や韓国(同約37%)と比べ経済の輸出依存度は高い。

最初に、国別輸出動向を見ると(図表2)、中国向け輸出は台湾の輸出全体の4分の1を占めており、米中貿易摩擦や中国経済の減速による悪影響が懸念されてきた。

事実、中国向け輸出は、2018年11月以降前年同月を下回り、米ドルベースでの減少率は9%台にまで拡大した(2019年2月前年同月比▲9.1%)。そのため、中国向け輸出の減少が台湾の輸出全体を押し下げ、輸出総額は4ヶ月連続で前年同月を下回った。

【図表2】台湾からの国別輸出(USD)
出所:財政部「貿易統計」より丸紅経済研究所作成

次に、商品別の輸出動向を見ていきたい(図表3)。台湾の輸出全体で大きな割合を占める電子部品などの輸出は、数量ベースでも減少傾向に転じている。ただし、DRAM(※2)やIC(※3)というよりは、太陽光発電で使用する光電池などの輸出の大幅減が全体を押し下げた(HSコード6桁:854140、同▲44.9%)。

電子部品以上に深刻な状況にあるのは、化学品や金属製品である。化学品の中でも、無機化学品(同▲22.7%)は8ヶ月連続で前年を下回っており、昨年9月以降は前年同月比10%以上の減少となっている。

また、台湾の化学品輸出のうち5割以上を占める有機化学品(同▲18.7%)も2018年12月以降前年を下回っており、先行きを注視する必要がある。金属製品に関しては、約3割を占める鉄鋼輸出の落ち込みによるところが大きい(同▲22.8%)。中国経済の減速などを背景に、鉄鋼価格が下落し、輸出数量も減少している。

先行きについて見ると、電子部品に関しては、フォックスコンが高雄市に新規でAI工場を建設することや、米中貿易摩擦による高関税の回避を目的とした中国本土内から台湾域内への生産シフトなどのポジティブな話題もある。

だが、化学品に関しては米国や中国などで大型エチレンクラッカーなどが稼動し始め、金属製品に関しても中国における過剰設備が根本的には解消していない。ただでさえ台湾域内の化学品産業や鉄鋼産業を取り巻く環境が明るくない中で、これらの産業が苦境に陥りうることが懸念される。

【図表3】台湾の商品別輸出数量指数
出所:財政部「貿易統計」より丸紅経済研究所作成

2020年1月11日の総統選挙に注目:主流対反エリートという見方も

2018年11月の地方選挙(高雄市や台中市など)で与党の民進党が大敗を喫した。しかし、中国の習近平国家主席による年初演説や政治協商会議で、台湾の武力による統一が否定されなかったことなどを背景に、台湾域内における中国への反発が強まり、現職の蔡英文総統への支持率がやや持ち直した。

支持率上昇を背景に蔡氏は党の予備選への立候補を表明、与党民進党内で蔡氏のライバルと見られていた台南市長(前行政院長)の頼清徳氏も立候補を表明した。だが、先述の通り、台湾経済が減速している現状では、与党議員の2人にとっては逆風下での選挙となる。

他方で、最大野党の国民党では、当初の下馬評を覆して高雄市長になった韓國瑜氏の勢い(いわゆる韓流)が続くのか、それとも主流派で米国留学経験を有する新竹市長の朱立倫氏が前回総統選挙のリベンジを果たすステージにたてるのかなどに注目が集まる。

ただ、台湾政治に関しても、他国と同様に「主流対反エリート」の構図が顕在化しつつあると見るむきもあり、既存の民進党対国民党という対立軸で考えられなくなっている面もある。無所属で、無党派層からの支持が厚い台北市長の柯文哲氏を推す声もある。

直近の世論調査によると、柯氏が総統選に出馬するか否か、また既存政党の候補者次第では、誰が総統になってもおかしくない状況である。

次期総統の政策次第では、経済政策のスタンスだけでなく、外交スタンスも大きく変わりうる。台湾にとって外交は重要である。中国の対外膨張主義が懸念される東アジア地域での安全保障を巡り、米国による台湾へのF16V戦闘機の売却といった政治課題がある。

また、距離の近さなどから多数の日系企業が台湾に進出しており、日本の対台湾投資残高は2017年末時点で1兆3532億円(※4)にものぼる。中国との両岸関係も含め、政治経済の両面で台湾から目を離すことのできない1年となりそうだ。

 

(※1)行政院は、8,800億ニュー台湾ドル(NTD)にものぼるインフラ投資計画を2017年からの8年間で計画している。

(※2)「Dynamic Random Access Memory」のことを指し、半導体メモリー(半導体記憶素子)の1つである。

(※3)「Integrated Circuit」であり、集積回路のことを指す。

(※4)出所:財務省「本邦対外資産負債残高」。

 


コラム執筆:佐藤 洋介/丸紅株式会社 丸紅経済研究所