予算教書の色は経済情勢を少なからず反映する

筆者の会社メールには定期的にFS Blogというものが配信されてくる。FSとは、Financial Secretary の略称のことで、香港政府財政長官Paul MP Chan氏から彼のブログがアップデートされたことを知らせるメールである。

同長官とは、昨年6月の昼食会でお会いして「嫌なボール」を投げたところ、さすが会計士のご出身だけあって見事に様々な数値と例示をもって丁寧に答えていただいたので筆者も大変好感を覚えたものだ。

それ以来メールが定期的に配信されるようになり、今回のブログには2019年度香港政府予算教書の冊子の色について記されていた。

冊子の色は時々の経済情勢を少なからず反映している。2018年度は、「好調な2017年度までの経済」を反映し、明るい色調であった。しかし、2019年度は中々不透明感の漂う中、リスクと機会を見極める年だと認識しつつも、香港は肥沃な土壌に恵まれた土地であり、耕すところはまだまだ多くあるとの思いを込めて、「薄緑色」としたとある。

つまり成熟経済と思われる香港をまだまだこれから発展していくのだと財政長官自らが宣言したように見える。

教育による将来投資をしようとする香港政府予算

2019年度の予算教書の概要を見てみると、歳入が6,260億香港ドル、歳出が6,078億香港ドルと、例年通りの黒字財政だ。日本円にして9兆円弱(※)の予算規模である。日本の2019年度予算の一般会計歳出総額は101兆4564億円。単純に人口対比の比較はできないが、香港の人口が750万人で、日本の人口の16分の1であることを考えると、香港政府の予算規模はそれほど小さなものではない。

支出を順に見ていくと、一番大きな項目が教育予算、そして次が社会福祉、健康関連と続く。この3大項目が全体の60%以上を占めている。2018年成長率3%で2019年もほぼ横ばい、信用格付けAA+(Fitch)という米国並みの信用力を誇る香港特別行政区は安定した経済に支えられ、財政運営も安定している。

香港基本法(日本の憲法のような存在)で赤字財政はご法度であるが故でもあるが、日本の財政に比べてうらやましい限りの状況である。教育予算に一番の力点を置きつつ、個人負担軽減を目指して、社会福祉関連予算を厚くしている。

ちなみに日本のように国民保険とか国民年金制度はないため(MPFと言うDC型年金制度を2000年12月からスタートさせている)、社会福祉関連費の中身もおのずと異なる。政府が社会を下支えしながら、しっかりと教育による将来投資をしようというものなのだ。これでこそ予算教書の冊子の色が、「薄緑色」いうのも合点が行く。

前述のとおり、日本は2019年度予算は101兆円という史上最大規模一般会計予算である。高齢化社会を本格的に迎えた日本は社会保障費が全体の3割以上を占め、次に大きいのが赤字財政を支える国債費支出、そして低迷する地方経済を支える地方交付税交付金。この3大項目を足すと全体の70%を超える。

2019年1月に麻生大臣が財政演説をしたようだ。演説草稿の表紙を見たことはないが日本の予算教書は、「赤色」なのではと推測したくなる。

 

(※)1香港ドル=14.19円(2019年3月12日現在)