競争の激しい香港銀行業界で独立資本を保つ

香港で創業された金融機関は数えると10行くらいあり、その代表格はイギリス人によって1865年に設立されたHSBCであろう。ヨーロッパとアジアを結ぶ金融の懸け橋として設立されたローカルバンクであるHSBCは、今では巨大金融グループに育ち、香港では中央銀行のように3大発券銀行の1つとしてその地位は揺るぎのないものになっている。

傘下に香港ローカル銀行であるHang Seng Bank(中国語名=恒生銀行)があり、HSBCはその株式を62%保有する。

一方、香港人によって創業された金融機関では、一番古いのがBank of East Asia(中国語名=東亞銀行)であり、1919年創業し今年1月で100周年を迎え、今もしっかりと経営の独立性は保っている。

香港資本で他の金融機関からの独立性を創業以来保っているのは、東亞銀行とDah Sing Bank (中国語名=大新銀行、創業1947年)の2行だけである。その他前述の恒生銀行や永隆銀行など地元金融機関と目される金融機関はあるが、全ては大資本傘下に入って支配権を握られているのが実情である。

香港の銀行制度下では、フルライセンス銀行と言われる金融機関が150社以上あり、筆者の属するNippon Wealth Limitedのような預金受け入れに制限のあるリストリクテッドライセンス銀行が18社ある。他にも16社のデポジットテーキングカンパニーがあり、合計200弱の金融機関がひしめき合い、適者生存の競争社会原理が働いている。

ちなみに、香港の人口は大阪府より1割以上少ない。ユーザー数だけ見れば、明らかにオーバーバンキングであるには違いない。

しかし、現在日本で言うインターネット専業金融機関免許の取得のために新たに30社がしのぎを削っているところから考えれば、ボーダーレスの意味合いの強いビジネスモデルにおいて、香港でもまだまだ金融のパイは広がる余地があると見ている。そんな競争の激しい銀行業界の中で、一独立系銀行として東亞銀行は100年も事業展開してきたのだ。

典型的な中国ファミリービジネス

筆者は、新年早々同行の100周年パーティに招待されて行ったのだが、香港コンベンションセンターの一番大きいスペースで開催され、招待客の数は、1,000人は下らないだろうと思われる。そしてVIP来賓には、行政長官、財政長官、政務長官の3長官全員が席を並べていた。

もちろん、経営陣も一堂に会し、過去20年以上会長兼CEOとして勤める御年80歳のDr. David Li氏を筆頭に息子のAdrian氏 とBrian氏がDeputy CEOとして補佐として横に立っている。

そうなのである。東亞銀行もDavid Li氏の祖父が、ベトナムからのコメ輸入で財を成して以来、Liファミリーが家督を子供たちに継がせてきた典型的な中国ファミリービジネスなのである。従って、当然のように息子2人がナンバー2として父親をサポートしている。

日本と異なり、長男が家督を継ぐという風習ではなく、後継候補の中から誰もが優秀と認める子どもたちの1人に最終的に後継が決まっていくのである。これからAdrian氏 とBrian氏のいずれかが恐らく後継指名されていくのであろう。

伝統的な中国系事業承継に乗り、したたかに次世代を見据える

さらに、パーティ会場に隣接したスペースに東亞銀行の歴史展示ルームが設けられていた。そこには1919年の開業当初から現在に至るまでの男女行員の制服が飾られおり、1919年当時の女子行員用の制服は、現代の制服といっても全く通用するようなモダーンなものであったのは驚きであった。

そして香港最初の貸金庫を始めたのも同行であり、1970年代に銀行業務のオンライン化を進めているとある。つまり同行は、創業以来「先進性」を重んじてきているのだ。

そして何よりも驚いたのは、招かれた香港行政長官が来賓あいさつで、同行のフィンテック業務は香港金融界リーディングバンクであるとして大いに持ち上げ、さらにはインターネット専業銀行立ち上げ意欲を示していると言及までしていた。

当然作られた原稿を読み上げているのではと想像するが、100周年を迎えた銀行が、現状に満足することなく、そして次世代の銀行モデルに移行することを香港政府のトップの口からコメントしているのである。

その100周年記念スローガンが凄い。
“Today’s Success Tomorrow’s Legacy.”「今日の成功は、明日の陳腐化に繋がる」

伝統的な中国系事業承継ルールにのっとり、慎重に後継者を選び、そして家業である「銀行業」は過去にこだわることなく、未来志向の銀行を目指す。

正月早々、香港金融機関のしたたかさを存分に見せられた気分である。2015年創業したNippon Wealth Limitedが100周年を迎える2115年はいかに。思わず気合いが入る。