世界最大の鉄鋼生産国である中国において、2017年業界に激震が走った。それは、電炉による「造反」だ。

鉄くずが数千万トン単位で余剰に

中国の粗鋼生産は、8億トン強と世界全体の半分を占めるが、そのほとんどは鉄鉱石から作られている。その一方で、回収された鉄くずを溶かして製鋼する電炉方式は極めて限定的だった。しかし、2017年に地殻変動的な事態が起こり、電炉製鋼はあっという間に1億トンへと倍増しようとしている。

その主な要因は、2017年半ばに違法操業で生産が停止された「地条鋼(ちじょうこう)」にさかのぼる。地条鋼とは、回収された鉄くずを溶かし生産した粗悪な鋼材のことを指すが、品質が悪いため建物の崩壊や橋の崩落事件が相次ぎ、政府の取り締まりの対象になった。

2017年6月末をもって、全国で600社の地条鋼企業が閉鎖された。その生産量は7,000万トン、生産能力は1.4億トンにも及んだ。地条鋼企業に使用されていた鉄くずは、急に行き場を失い、数千万トン単位で余剰になった。その結果、鉄くずの価格は1トン当たり800元程度と、ホットメタルの半分未満に下落。破格の相場に、当時ヒアリングした中国現地の電炉メーカーの担当者も驚きと喜びを隠さなかった。

3年間で電炉新設1億トン超見込み

中国の電炉は、長年鉄くずの不足に悩まされていたが、地条鋼の閉鎖により余剰となった鉄くずの利用を拡大する動きが活発化している。また、汚染物質の排出においては、電炉は高炉・転炉の6分の1にとどまり、中国政府は環境保護の観点から電炉を推奨する政策を取り始めた。

電炉は、そのような背景の下で雨後の竹の子のように急増している。新設能力は、2017年に+5,000万トン、2018年に+2,000万トン、2019年に+4,500万トンと報道されている。電炉製鋼の生産量は、2016年の5,100万トンから2017年に7,700万トンに拡大し、2018年には1億トンを突破する見込みである(図表)。

【図表】中国における電炉製鋼量の推移  
出所:世界鉄鋼協会、WINDより作成。2018年:丸紅経済研究所推定値

電炉に投資する企業は、四川省や湖北省、雲南省などの中西部における中堅鋼材企業が多い。安価な鉄くずによる採算性の向上や政府の推奨政策を背景に、資金調達がしやすくなっているとされている。

日本への影響

2018年12月10日に、中国政府系シンクタンクである、冶金工業規画研究院は定例の2018~19年鉄鋼需給予測を発表した。2018年については、鉄鋼の需要と供給とも2桁の成長と、強気の見通しだったが、2019年は足元の景気減速や米中貿易戦争などを受け悲観的な見通しであり、鋼材需要は8億トン(前年比▲2.4%)、粗鋼生産は9億万トン(同▲2.5%)、銑鉄生産は7億2600万トン(同▲4.9%)、鉄鉱石需要(鉄分62.5%換算)は11億4700万トン(同▲4.9%)となっている。

2019年は中国発の鉄冷えのリスクが高まっており、日本への影響としては

1.鋼材や鉄鋼原料の市況下振れリスク
2.中国鋼材の輸出ドライブ
3.中国内で余剰となる鉄くずの対日輸出急増

の3点に留意が必要である。


コラム執筆:李 雪連/丸紅株式会社 丸紅経済研究所