東南アジア諸国連合(ASEAN)は、毎年11月前後に世界の注目を集める。この時期にASEAN関連の首脳会議が立て続けに開かれ、ASEAN各国のみならず、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド、米国、ロシアの首脳らが一堂に会するからだ。今年は11月中旬に第33回ASEAN首脳会議がシンガポールで開催され、日本からも安倍首相が参加したところである。

実はASEANは、昨年から今年にかけて大きな節目を通過しつつある。昨年はASEANにとって設立50周年の記念すべき年にあたり、今年、新たな半世紀に向けて踏み出したのである。

ASEANは設立以降、域内の経済協力を進め、2015年には共同体を発足させた。今年のシンガポールでの一連の会合では、さらにこれからの新たな50年を迎えるにふさわしい多くの取り組みが披露された。その中から特筆すべき2つをご紹介したい。

第1は、持続的な都市開発を目指す「ASEANスマートシティネットワーク(ASCN)」が始動したことである。ASEANでは今後急速に都市化が進み、2030年までに新たに9千万人が都市人口に加わると予想されている。これに伴い、交通渋滞、水質汚染、貧困、格差拡大など様々な都市問題が生じ、その解決が急務となる。

そこで登場してきたのが、ITなどの先端技術を活用して課題解決を行う「スマートシティ」だ。ASCNは2025年にかけてASEAN域内の26都市のスマート化を進める構想であり、将来にわたるASEANの都市づくりのモデルになると期待される。本構想は今年に入りシンガポールが主導して打ち出され、11月13日のASEAN首脳会議で枠組み文書の採択が行われた。

第2は、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉がいよいよ最終段階に入ったことである。RCEPはASEAN10ヶ国+6ヶ国(日本、中国、 韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)による貿易・投資の自由化に向けた協定であり、これが結ばれれば世界最大の経済圏を構築することになる。

その実現は、アジア、ひいては世界経済の発展にとって極めて重要な意味を持つ。RCEP交渉は今年多くの分野で進展が見られ、11月14日開催のRCEP首脳会議の共同声明において、2019年に交渉を妥結に導く強い決意が表明された。

RCEPの大きな役割の1つは企業のサプライチェーン(調達~製造~販売等)の円滑化であり、米中貿易戦争を受けて企業が中国の進出拠点をASEANなどに移転する動きも想定される中で、RCEPがサプライチェーンの見直しに通じることになるかもしれない。

このように新たなステージを迎えているASEANに対し、日本はどのようなプレゼンスを発揮できるだろうか。都市化への対応という面では、来年東京でASCNハイレベル会合が開催される予定であり、イノベーションや技術開発の分野でも「日ASEAN第4次産業革命イニシアティブ」などの取り組みが進められている。

また、RCEPは、そもそも日本が「自由貿易の旗手」として、精力的に交渉を推進してきた協定である。こうした協力の拡大と深化を通じて、日本とASEANの関係が一層緊密化していくことを期待したい。

 

コラム執筆:金子 哲哉/丸紅株式会社 丸紅経済研究所