日経平均のサイコロは昨日までで6勝6敗だが、騰落を〇●で示すと、こうなっている。

〇●〇●〇●〇●〇●〇● 

きれいに騰落が交互に繰り返されている。これを見ると、今日は〇、上昇すると思いたくなるが、果たして日経平均は反発して始まり、寄り付きから30分経過した現在もプラス圏を維持している。

〇●〇●〇●〇●〇●〇●の並びに何か意味があるのだろうか。9分9厘ない。

〇●〇●〇●〇●〇●〇●となったのは偶々で、〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇も、●●●●●●●●●●●●も珍しくはない。実際、昨年の秋には16連騰もあった。過去12日間の騰落が〇●〇●〇●〇●〇●〇●となった後、13日目の今日の日経平均が上昇して始まったのは、昨日のNY市場でダウ平均が5日ぶりに反発したからだ。〇●の並び方とは関係ないだろう。

われわれは、ある連続したパターンが起こると、そこに何かしらの意味を見出そうとしてしまう。バスケットボールで連続してシュートを決める選手のことを「やつはHot Hand持っている!」などという。次のシュートもまた入るに違いないと期待する。しかし、フィラデルフィア76ersのある日の試合でデータを分析したところ、3本以上連続してシュートを決めた選手の4投目は外れる確率が5割より高く、逆に3本以上連続してシュートを外した選手の4投目は入る確率が5割より高かった。つまり、平均に回帰するのである。

われわれは、ランダムなものをランダムであると認めるのが苦手である。『ブラックスワン』で有名なニコラス・ナシーブ・タレブは「講釈の誤り」という概念を指摘する。われわれは、本来ランダムな動きに過ぎないものをストーリー(講釈・物語)に落とし込もうとする。因果関係はないのに、たまたま相関がある、なんてことはざらにある。

英国政府の要請で市場改革案をまとめた「ケイ・レビュー」で有名なジョン・ケイはうまいことを言っている。
「ランダムに生まれたデータの中に特定のパターンを探そうとすると、心は温まるが懐は寒くなる。」

過去に何度も同じようなレポートを書いてきた。乱数を発生させてウィナー過程で人為的な株価チャートを描く。それとそっくりな日経平均の動きがたくさん見つかる。そこにいかようにでもトレンドラインを引くことができるし、移動平均との関係を指摘することもできる。100%、偶然によって描かれたチャートでも、極めて「もっともらしい」説明をつけることができる。これが、チャート分析がいかに当てにならないか、ということの証明である。

そうしたことをじゅうぶんわかったうえでチャートの形状についての話をしよう。1カ月前の10/12付ストラテジーレポートではこう述べた。

<今回の米国株安は、早い段階から予見していた。例えば3月7日のレポートでは、マーケットが一度大きく崩れると、完全に底が入るのには時間がかかると述べている。10年前のリーマンショック、3年前のチャイナショックを例に引き、最初の暴落の半年後に2番底を探る動きとなったことを指摘。それに倣えば、今年の秋に2番底模索の展開となるシナリオを提示した。>

暴落があると、それから半年前後で2番底が来る。2015年のチャイナショックのケースでは翌年の2番底は原油安を伴う株価急落であった。
 

WTI原油(ローソク足)とNYダウ平均(折れ線)2015年7月29日~2016年3月1日
出所:Bloomberg

 そして今回もそのパターンになっている。2月の急落に続いて10月に金利上昇によるバリュエーション調整で始まった米国株安は、リスク・パリティのポジション調整といった下げの第2局面を経て、現在は第3局面に入っているという認識だ。この第3局面の背景は原油安である。NYMEXのWTI原油先物は13日まで●●●●●●●●●●●●を記録。サイコロで全敗、12日続落という史上最長の下落となった。

原油先物のカーブを見ると、それほどコンタンゴが強くないので割安感はいまひとつだが、とりあえず年初来安値に並んだところで反発している。ここで原油に下げ止まり感が出れば、米国株も落ち着こう。この先は今月末の米中首脳会談次第だが、将来の交渉「枠組み」で合意との観測も報じられている。期待したいところだ。

しかし、米中首脳会談がポジティブとなり年末にかけて戻りを辿ったとしても、年明けは要注意である。英国のEU離脱交渉の大詰めが待っている。EUとの間で離脱条件の「合意なし」を避けられるかの判断期限は来年1月21日。EU離脱は3月末だ。Hard BREXITの可能性が高まった場合、市場は大荒れとなるだろう。何が起こるかは予想できない。しかし、「何か」が起きた時に市場がどう動くかは予想可能である。ニュースそのものが重要なのではなく、そのニュースに市場がどう動くかが重要だ。

2015年夏のチャイナショックは、2016年の年明けから原油安で2番底模索となった。そしてその5か月後、6月の英国民投票でEU離脱が決まりBREXITショックが起きた。中国不安、原油安、そしてBREXIT。3年前とまったく同じ材料に市場は直面している。市場サイクルは「小回り3カ月、大回り3年」という。オークツリー・キャピタル会長のハワード・マークスは、新刊『市場サイクルを極める』の中で、「この先どうなるかは知る由もないが、いまどこにいるかについてはよく知っておくべきである」と述べている。