DeepMacro社が言う通り、今月の雇用統計は、ドルが弱くなっている状況のもとで発表されることになる。ISM景況感指数、個人消費支出の物価指標、自動車販売など直近発表された指標がいずれも低調で米国の長期金利は低下、それとともにドルも軟化している。よって、マーケットの観点からは(ここ最近のイシューであるが)NFPより賃金にスポットが当たるだろう。DeepMacro社が言うところの、「力強い雇用の伸びにもかかわらず賃金は伸び悩んでいる、というパズル(謎)」の答えを、われわれはずっと探してきたし、おそらくもうしばらく探すことになる。今回の雇用統計は、そのひとつのサンプルだろう。より有り体に言えば、そのひとつのサンプルに過ぎないということだ。だから、7月の雇用統計が6月よりも強い内容となっても「市場がより健全な反応を見せる」というDeepMacro社の予想について、僕自身は懐疑的である。但し、今回の結論については全面的に賛成である。
すなわち:

・FEDは成長が安定しているにもかかわらずインフレ圧力が薄れてきていることを認識している。

・現在の低インフレは「一時的」な現象であるとするFEDの考え方はすぐには変わらない。

・よって、賃金の伸びがたとえ軟調な結果になったとしても、FEDの姿勢にはほとんど影響を与えないだろう。

米国雇用統計プレビュー ・7月は、雇用に関して6月よりも強い内容の月となるだろう。雇用が大きく拡大したというよりも、市場がより健全な反応を見せるという観点で。
・7月の新規採用数(米3万社のサンプル)は、ほぼ安定していた。
・新規求人募集は弱かったが、この結果は雇用数よりも賃金にあらわれるだろう。
・7月は経済全体として強い成長基調にあり、企業レベルのデータとともに、われわれの大局的な見通しに対する重要なインプットとなっている。

米労働市場は7月の方が強い われわれの主要なデータソースは3万社に及ぶ米国企業の人事ウェブサイトに掲載される求人情報である。企業が求人広告をウェブサイトに掲載した時点でわれわれはそれを新規の「求人」とカウントし、掲載が取り下げされた時点で求人が「埋まった」=「採用」された、と判断している。新たな求人は企業の労働需要の増加を意味し、雇用の伸びの先行指標となる。月に100万件以上の求人情報が掲載されており、労働市場についてかなり詳細な情報を提供してくれる。これら新規求人データの総数は、われわれ独自の経済モデル「グロースファクター」によって計測される景気サイクルの強さといった他の変数と組み合わせることで、毎月のNFP数(非農業部門雇用者数)の予測に役立てることができている。

7月の米国雇用統計は今週金曜日に発表される。先月、われわれはコンセンサスを下回る数字となると予想したが、結果は市場予想を上回るものだった(予想中央値17万人増に対して18.7万人増(民間部門))。しかし、この発表以降、米2年債、10年債利回りは、一日を除き常に発表前の水準を下回っており、ドルはほぼ全ての通貨に対して下落している。もし市場に何が真実かを決める最終決定権があるとすれば、6月の労働市場は弱かった、とするわれわれの見方が正当化されていることになる。しかし、われわれは米国に対して弱気、というわけではない。景気サイクルの成熟期にあたるこの段階で、ここ最近の継続的な成長水準は目を見張るものがある。

7月は予測の難しい月となっているが、われわれは、市場は雇用統計にポジティブに反応するだろう、と考えている。われわれの主要なデータセット(3万社の人事ウェブサイトのスクレイピング情報)によれば、雇用活動は、7月初旬はかなり低調だったが、7月13日あたりから持ち直している。月後半に採用された人々のデータが7月の統計に含まれるのか、または8月に含まれるかが明確でないことが予測を難しくしているが、われわれは、月半ばには回復をし始めたのだから、6月に比べて7月の方が良い結果となる、とみて良いだろうと考えている。

さらに、より広範なデータを考慮した米国の「グロースファクター」(毎月のNFP数とも相関)は、7月に標準偏差0.4と比較的大きく上昇している(8月1日現在)。新規採用数と「グロースファクター」の結果から、われわれは今月のNFPは市場予想の18.1万人増に近い結果となるのでは、と予想している。これはかなり強い数字だ。われわれが伝えたいメッセージは、7月は6月に比べて良い月だった、ということである。

賃金:好調な雇用の伸び、冴えない賃金の伸びというパズルは続く 賃金に関しては良いニュースがほとんどない。力強い雇用の伸びにもかかわらず賃金は伸び悩んでいる、というパズル(謎)は引き続きみられそうだ。
賃金の伸びを予測する際にわれわれが利用する主要な指標は、求人数(労働力の需要)と採用数(労働者の供給)のギャップである。このギャップが大きいとき、企業は多くの労働者を雇用しようとしているが、できない状態となっている。これは賃金の上昇圧力となりやすい。求人数が少ないとき、企業は労働需要を減少させており、賃金の伸びは緩やかとなる傾向がある。この関係は過去数年にわたってみられるトレンドで、短期的にもよく当てはまっている。例えば、2017年3月以降で見てみると、労働の超過需要と平均時間あたり賃金はともに下落している。(Figure2参照)

労働の超過需要は7月に減少したが、これは新規採用が好調だったことが主な理由で、必ずしも悪いことではない。少なくとも雇用主は従業員を増やしている、ということだ。しかしながら、雇用主は採用が決まった後、新たな求人枠を追加する、ということはしていないようである。労働市場が本当に活況であれば行われるはずだが、行われていないようだ。

セクター別に見る労働市場:活況とまではいかないが力強い われわれは主要セクター毎に新規求人数と新規採用数をカウントすることが可能だ。各セクターの求人数と採用数の増減の幅は労働市場全体の強さの指標となる。7月は、われわれの他の指標が示すのと同様に、新規採用の方が新規求人よりも強かった。具体的には、それぞれのセクターの6ヶ月平均と比較して、新規採用数は16セクター中10セクターが増加したのに対し、新規求人数の増加は8セクターとなった。(Figure3参照)これは労働市場が、活況とまではいかないまでも、好調であることを示している。

良好なトーンであればFEDの姿勢に変化なし 今月の雇用統計は、(FED以外の)中央銀行の動向により大きな注目が集まり、米ドルが明らかに弱くなっている状況のもとで発表されることになるだろう。米国の成長は堅調で、緩やかだがトレンドを上回るペースできている。労働のファンダメンタルズは、われわれのボトムアップのデータソースから判断するに、6月より改善している。したがって、6月の雇用統計発表以降の金利低下、ドル下落の流れに対して、今回反発(逆転)する動きが見られたとしても驚きはしない。

FEDは成長が安定しているにもかかわらずインフレ圧力が薄れてきていることを当然ながら認識している。それでもFEDは一貫して金融緩和の出口政策に向けた、さらなる一歩を踏み出そうとしている。現在の高い資源利用率のもとでは、トレンドを上回る成長はインフレ圧力の増加につながるはずだ、というシンプルな見方からだろう。賃金の低成長と雇用の強い伸びが共存することを説明する共通モデルは存在しない。したがって、現在の低インフレは「一時的」な現象だ、とするものだ。FEDのこの考え方はすぐには変わらないだろう。そして、賃金の伸びがたとえ軟調な結果になったとしても、FEDの姿勢にはほとんど影響を与えないだろう。