今週の注目は8月23日~25日のジャクソンホール会合でしょう。
ジャクソンホールといっても会場の名称ではありません。Jackson HoleのHoleは「谷」のことです。アメリカ合衆国ワイオミング州北西部に位置する谷で風光明媚な観光地の名称ですが、毎年8月下旬にここで催される経済政策シンポジウムの通称でもあります。
世界各国から中央銀行総裁・政治家・学者・エコノミストなどが集まり、最新の経済理論やその成果などを自由闊達に議論しようというもので、例年、各国中央銀行総裁の発言には注目が集まります。
そもそもジャクソンホール会合は、今後の金融政策の導入や変更を示唆するための場ではありませんが、過去にはこの場のパネルディスカッションや講演において市場へのメッセージを発信する形となった事例は少なくありません。
2010年、当時のFRBバーナンキ議長は「経済が減速すればさらなる金融緩和に踏み切る」と量的緩和政策第2弾(QE2)を示唆。実際に同年11月にQE2を決定しています。
この時、ジャクソンホール会合に参加していた当時の日銀白川総裁は、日程を繰り上げ急遽帰国し、臨時の金融政策決定会合を開き新型オペの拡充策を決定しています。後に当時の日銀白川総裁は、ジャクソンホール会合でのやり取りがこの政策決定に影響を及ぼしたことを明らかにしています。
2014年には、ECBドラギ総裁がジャクソンホール会合での公演で追加緩和策を行う用意があることを示唆、同年9月に追加利下げと資産購入を決定しています。
2016年には、当時のFRBイエレン議長が「利上げへの論拠が強まってきた」と早期利上げを示唆、同年12月に2回目の利上げが実施されています。
昨年2017年6月、ポルトガルのシントラでの講演でECBドラギ総裁は「デフレの力がリフレの力に置き換わった」と発言。これを金融緩和縮小の示唆と受け止めた市場はユーロ買いに動きました。
2ヶ月後となるジャクソンホール会合で、ユーロ高をけん制するのではないか、との観測が広がったのですが、ドラギ総裁はユーロ高について言及することはありませんでした。これが「ユーロ高容認だ」としてユーロ上昇が加速する、なんてこともありました。
こうした過去の事例から、例年金融政策へのヒントが飛び出すとして注目されてきたジャクソンホール会合ですが、2018年の現時点においては、米国は粛々と利上げを実施しています。年内あと2回の利上げの織り込みが濃厚で市場との対話にも問題はありません。
欧州は今年6月のECB理事会で、年内の量的緩和終了を決め、少なくとも2019年夏にかけて金利は現行水準に留まると早期利上げ観測を後退させています。日銀も7月の金融政策決定会合で金融緩和政策の修正を行いましたが、それによって金融緩和政策はより長期化するとのメッセージを強く押し出しました。
日米欧と今後の金融政策には不透明感はなく、変更や修正などのサプライズが予想される状況にはありません。ということで、今年のジャクソンホール会合はあまり注目度が高くはありませんでした。トランプ大統領が8月20日、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が利上げを継続する方針であることについて「気に入らない」と述べたと報じられるまでは...。
独立性が担保されている中央銀行の金融政策に、大統領が圧力をかけるなどということはあってはならないことですので、これに屈してFRBパウエル議長が9月に見込まれる利上げを取りやめるということはあり得ません。しかし、FRBパウエル議長を指名したのがトランプ大統領であるということから、少なからずこれを受けたパウエル議長発言には注目が集まります。
また同時に、トランプ大統領は、中国や欧州連合(EU)が通貨を操作していると非難しており、これを受けてECBドラギ総裁が何か言うだろうか、という意味でも関心が高まったと言えるでしょう。
FRBパウエル議長は米東部時間8月24日午前10時(日本時間同午後11時)に「変化する経済における金融政策」をテーマに講演する予定です。