トルコの通貨リラの下落は、南アフリカの通貨ランドやインドの通貨ルピーなど新興国通貨の下落に波及しただけでなく、多額のトルコ債券を保有しているとしてスペインやイタリアの銀行不安が広がりを見せ、欧州の通貨ユーロの下落まで誘引しました。

トルコリラは2001年2月に変動相場制に移行しましたが、当時のレートは1トルコリラ170円ほどでした。今回の下落でトルコリラは15.60円近辺にまで下落しています。長期化する経常赤字がトルコリラ安の背景ですが、恒常的なトルコリラ下落で輸入物価が高くなってしまうため、インフレ率が高いことも問題です。さらに近年ではISによるテロなど地政学リスクが観光収入を減少させており、恒常的にトルコリラ安が継続しているのです。

足下ではこの6月の大統領選挙で再選されたエルドアン大統領が、金融政策を司る中央銀行に対し、利下げを主張していることが懸念されています。トルコリラ安の影響もありトルコのインフレ率は15%にも上るため、物価の安定のためには利上げが必要な局面なのですが7月の政策会合では利上げを見送ったことで市場が失望、トルコリラ下落がさらに加速しました。トルコリラが暴落しているこの局面で、利下げは考え難いのですが、利上げの必要に迫られているのに利上げできないというだけで、トルコリラ売りの材料としては十分です。

こうした中で、トランプ大統領がトルコに対する鉄鋼・アルミ関税倍増を指示したことがきっかけとなり、トルコリラの大暴落が起こりました。2016年にトルコで起きたクーデータ-未遂事件に関与したとしてトルコで軟禁状態にある米国人、ブランソン牧師の釈放を求める米国に対し、トルコもまた米国に亡命しているイスラム教指導者ギュレン師の引き渡しを求めており、米国はこれを拒否しています。トルコに対する関税引き上げは、このような政治的背景が引き金となっているため、トルコ側の譲歩がない限り米国の制裁の圧力は緩むことがないと思われ、トルコリラの下落に歯止めがかかるとは思えません。

足下の為替市場、下落圧力が強いのはトルコリラだけではありません。国際決済銀行(BIS)によるとスペインは2018年3月末時点で809億ドル(9兆円弱)のトルコ向け債権があります。フランスが351億ドル、イタリアが185億ドルも保有していることが懸念され、ユーロにも売り圧力が強まっています。そもそも6月のECB理事会で政策金利を「少なくとも2019年夏にかけて」過去最低の現行水準を維持するとの見通しを示したことで、ユーロは下落圧力が強まっています。

ニュージーランドもまた、8月9日のニュージーランド準備銀行(RBNZ)政策会合にて政策金利を据え置き、「2020年まで利上げしない」スタンスを示しました。今後2年金利が上がらないとうことで、ニュージーランドドルは売り圧力が強まっています。

イギリスは2017年11月に10年ぶりの利上げに踏み切り、この8月にも再度利上げを発表しました。利上げのサイクルにあるポンドですが、上昇するどころか4月を天井にして下落が続いています。ポンド売りの材料は「合意なき離脱リスク」。イギリスは2016年の国民投票でEUからの離脱(ブレグジット)を決めました。離脱といっても簡単ではありません。EUとイギリスの間で様々な新ルールの取り決めが必要となります。EUとの間でのブレグジット交渉のデッドラインは2019年3月29日ですが、実際には合意事項をイギリスとEU各国の各議会の承認を得る必要があるため、2018年10月までには条件合意が求められますが、現時点では何もまとまっていない状況です。

日本は7月の日銀の金融政策決定会合で修正があったとはいえ、低金利政策の長期化は明白。ということで、粛々と利上げを続けている米国以外の国には買い材料が見当たらず、ドル一強となってしまっているのです。行き過ぎた相場の揺り戻しはあっても大局のドル高はまだ続くものと思っています。

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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