7月31日(火)、日銀は金融政策決定会合で、ETF買い入れについてTOPIX型を増額し日経平均型を減額する修正、並びに、現状0~0.1%近傍に誘導している「長期金利」について「経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし」と柔軟性を持たせることを発表しました。金利上昇もある程度容認するという政策の修正ということです。2016年9月に導入されたイールドカーブ・コントロール政策導入以来の修正となります。
これが出口戦略の1歩だ、と受け止められてしまうと日本株の下落、為替市場での円高のリスクが高まりますが、発表の前後こそ上下に乱高下したものの、大きな下落にはつながりませんでした。日銀会合を迎える前に、ドル/円相場は113円台から110円台まで下落しており、この結果はある程度先に織り込まれていたとみられます。
7月20日(金)に、日銀が緩和政策の柔軟化を検討しているという観測記事が出されました。複数のメディアから「日銀関係者によると」という形で、ほぼ同じタイミングで飛び出した観測記事は、日銀からのリークであり、市場の地ならしであった可能性を指摘する金融関係者が多いようです。真偽は不明ですが、もし日銀がリークにより市場に政策変更の可能性を事前に織り込ませていたとするならば、日銀はサプライズ型の政策発表から脱却し、市場との対話を始めたということです。今回の会合では新たに、「政策金利のフォワードガイダンス」を新たに導入しています。フォワードガイダンスでは「2019年10月に予定されている消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当面の間、現在の極めて低い長短金利の水準を維持することを想定している。」と、来年の消費税引き上げの影響に配慮し当面金利は低い水準に維持されると、強力な緩和政策を維持するための枠組みの強化を示しています。フォワードガイダンスの導入によって、市場には安心感が広がったものとみられますが、これは同時に市場との対話を強化していく姿勢を明確にしたものと思います。
※フォワードガイダンス=中央銀行が「将来(フォワード)」の「指針・方針(ガイダンス)」を前もって示すこと。
日本国債の長期金利の上昇容認、この部分だけを切り取ってみれば円高要因です。しかしながら、フォワードガイダンスを導入し強力な緩和政策の長期化を確認したことや、事前に観測報道が出たことで、ある程度の金融政策の修正が先に市場に織り込まれていたことが、そのショックを和らげました。ということで、日銀の金融政策の修正による円高リスクは、それほど心配しなくてもよさそうです。多少日本国債の長期金利が上昇したところで1%以下でのわずかな変化です。これを材料に全面的に円買いを仕掛けてくるほどの妙味はないと思われます。米国の政策金利が引き上げられている影響で、「ドル売り(円買い)」にはスワップコストがかかってきます。金利差分の支払いが負担となるため、投資家らはドル/円のショートを長期的に持ちにくい、というのが現状なのです。
※マネックス証券のFXPLUSでドル/円を1,000通貨売ると、1日当たりスワップ金利7.2円の支払いが生じます。1万通貨では1日当たり72.0円。(7月31日現在)
ということで、金融政策面から見ると、過度な円高警戒は無用かと考えていますが、8月はアノマリー的に例年円高圧力が高まる月です。
※アノマリー=マーケットにおいて、理論的根拠はないがよく当たる経験則
米国債の償還、利払いを材料にした投機筋らの仕掛けが8月円高アノマリーの背景と解説されることが多いのですが、ドル売り円買いはスワップコスト負担がかさむため、仮に投機筋らによる仕掛けで円高となる局面があっても短期的に終わる可能性が高いと思っています。ということで、8月もドル/円相場は膠着、レンジ相場が続きそうです。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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