トランプ政権がドル高牽制に動き出しました。欧州・英国、日本がゼロ金利政策を継続する中、米国だけが利上げを継続しています。(英国は2017年11月に利上げを実施しましたが、それでも政策金利は0.5%です)2018年6月のFOMCでの利上げで米国の政策金利は2.0%に達し、高金利通貨として人気を集めていた豪州やニュージーランドの政策金利を上回っており、金利差から見ても米ドルに資金が集まるのは自然ですが、トランプ大統領は7月19日「高い金利は米国にとり不利になる」「金利の引き上げに必ずしも同意しない」などと発言。Twitterでも中国やEUの金融政策に苦言を呈しました。7月20日夜にはブラード米セントルイス連銀総裁が「予想通りに年内にあと2回の利上げを行えば、名目イールドカーブは2018年終盤には逆転する」とし「長短金利が逆転する「逆イールド」のリスクを回避するために一段の利上げを控える必要がある」と発言しました。現在、米国の10年債利回りと2年債利回りのスプレッド(価格差)は縮小を続けています。基本的には2年債より長い期間である10年債のほうが、利回りが高いのが自然ですが、金融引き締めなどによってこの金利差が縮小し、これが逆転すると米国はリセッション(景気後退期)に入るとされています。過去の経験則からマーケット関係者はこの長短金利逆転への警戒を強めていますが、いよいよ米国要人からこの点に言及があったことで、米ドルは大きく売られました。(ただし、ブラード氏は今年のFOMCで投票権は持っていません。)
後に、ムニューシン財務長官が「トランプ政権がFRBの独立性を完全に支持していると私は強調したい」と火消し発言をしており、法の下でその独立性が担保されているFRBがトランプ大統領に配慮して利上げを見送ることはあり得ないはずですが、市場はトランプ氏の発言に敏感に反応しました。
ドル高が修正されるという可能性だけではなく、これまでの円安基調にも水を差す報道がありました。7月30~31日の日銀の金融政策決定会合では、金融政策の修正の可能性が出てきたのです。7月20日、「日銀、長期金利目標の柔軟化検討=一定程度の上昇容認」との報道を受け、為替市場では円全面高となりました。
日銀が大規模異次元金融緩和政策で「0%程度」に据え置いている長期金利の誘導目標の柔軟化を検討することが明らかになった、というものです。つまり、一定程度の金利上昇を容認する可能性があるということです。
日銀の2%の物価上昇目標の実現がなかなか達成できないため、金融緩和政策は長期化の様相を呈しているのですが、それでは生命保険会社や銀行など金融機関が収益を上げられません。現状では、米国債や欧州債などの外債投資を積極化させており、これが足下の円安要因にもなっていましたが、これもあまりうまく行っていません。そもそも日銀が日本国債を大量に買い入れているために取引できる国債が減っているだけでなく、イールドカーブ・コントロール政策で、長期金利をゼロ近傍に据え置いているため、収益を上げられないという副作用が長期化することへの懸念は日に日に強まってきています。日銀が、一定の金利上昇を受け入れるという政策の修正があれば、足下でおう盛となっていた本邦機関投資家勢の外債投資にブレーキがかかる可能性が高まるだけでなく、いよいよ日銀が出口に舵を切ったとして、為替市場では投機筋が円高アタックを仕掛けてくる可能性も否定できないでしょう。ただし、まだ決定したわけではありませんので、7月30~31日の日銀の金融政策決定会合に向けては、これが意識され続ける神経質な相場になりそうです。
FRBの利上げへの牽制も、日銀の出口模索も現時点では決定事項ではないのですが、どちらも為替の変動要因としては非常に大きな「金融政策」にかかわるニュースです。次回のFRBの利上げは9月の見込みですので、まだ先ですが、7月30~31日の日銀の金融政策決定会合は、来週のイベントです。どのような決定がなされるか、事実を確認するまではドル/円相場は神経質な展開を強いられそうです。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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