上海総合指数が2015年~2016年のチャイナ・ショックの急落時水準まで下落しています。2018年1月には3,500Pの高値がありましたが、足下では2,750Pを割り込み、上半期だけで20%を超える下落となっています。一般的に20%を超える下落はベアマーケット入りのシグナルとされ、中国株からの資金流出が世界の金融市場全般の懸念材料となってきました。

足下の下落加速は、今週7月6日に迫った米国による対中制裁関税第1弾発動、並びに中国による対米報復関税発動が経済に及ぼす影響を嫌ったものと推測されます。株式だけではありません。為替市場では人民元安が進んでいます。7月3日午前には対米ドルで人民元相場は一時6.72元台にまで下落し2017年8月以来の元安水準へと沈みました。米国による25%の関税引き上げに対抗するために、中国当局が人民元の切り下げに動いているという憶測も浮上していますが、人民元安のスピードが速ければ、資産の目減りを嫌う投資家らが人民元からの資金逃避を加速させる事態へとつながります。7月3日の東京時間には、中国の大手国有銀行が人民元支援のためドル売り元買いを実施しているとの観測も聞かれました。2015年のチャイナ・ショックは、急激な人民元下落がもたらした金融ショックでしたが、その記憶がまだ新しい中で、中国当局が積極的な人民元安誘導に動いているとは考えにくく、足下の元安は投資家らの資金が中国から逃げ出している可能性が大きいとみています。

上海総合指数、人民元の下落はいよいよ日米の株式市場にも影響を及ぼし始めています。過去の日本市場においては日本株式市場が下落すればドル/円相場も一緒に円高ドル安に動く相関がみられますが、ドル/円相場は110円台で下値固く推移、111円台を狙うような強さすら感じられます。何故でしょうか。

推測できるのはスワップ金利です。現在、欧州、日本、オセアニアなど主要国の中で、政策金利が最も高いのが米国です。FX市場では米ドルの買いポジションを保有すると、自国通貨との金利差分がスワップ収入として受け取ることができますが、米ドルを売れば、逆にスワップ分を支払わなくてはなりません。2015年からスタートした米国の利上げにより、長期での米ドル売り保有には、スワップ支払いという高いコストが生じる構造となりました。未だゼロ金利政策を継続している欧州、ユーロ/ドルでのユーロ買いドル売りや、マイナス金利政策の日本、ドル/円でのドル売り円買いは長期ポジションとして保有し続けることが難しくなってきている、ということなのです。その昔高金利通貨として人気のあった豪ドルやNZドルも同じです。豪州やNZよりも米国の政策金利の方が高い構造となったため、豪ドルやNZドル相場においても、ドル買いの方が長期的に楽なポジションである、ということです。

今、米中・米欧貿易問題や、ドイツの政治リスク、排ガス不正再燃での独自動車株下落などリスク懸念が広がる中、積極的にリスク資産を買う気になれない投資家らによる手仕舞いが広がっており、手仕舞われた株などのリスク資産は、置いておくだけでスワップ収入が得られる米ドルとなっているのではないかと考えられます。つまり、リスク資産のキャッシュ化がドル高を加速させており、リスクが懸念される環境にあってもドル/円相場が崩れず下値固く推移しているものとみられます。

円を主軸に考えれば、〇〇ショックというような大きな金融混乱が起きれば、円の対外資産が国内回帰するレパトリエーションの思惑から円高になることも懸念されるため、ドル/円相場は、すっかり膠着してしまいました。

米中貿易問題が話し合いにより対立の構図から脱却するなど、リスク要因が払拭されればキャッシュとして待機しているマネーが再びリスク資産に流入すると考えられますが、足元ではそのような期待が持てる状況ではなさそうです。このまま中国株、人民元安が進行し中国経済が失速していくなら、中国との貿易関係が強い豪ドルの下落が懸念され、対ドルでの豪ドル売りに妙味のある局面かと考えています。

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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