米国の利上げが日米金利差拡大をもたらすためドル/円相場を押し上げる、という教科書的な解説通りには市場は動きません。6月13日のFOMCでは、0.25%の利上げが発表され、年内後2回の利上げ見通しが示されましたが、ドル/円相場は足下では円高ドル安基調に入ったように見えます。

米国は今回6月の利上げで政策金利が2.0%まで引き上げられました。年内後2回の利上げがあるならば2.5%まで金利が上昇することになります。一方で、日本の長期金利は日銀の政策によりゼロ近傍に据え置かれたままです。つまり、スワップポイント(金利差収入)のインカムゲインを狙うなら円資産をドルに換えておくほうがお得なのですが、ドル/円相場が下落しキャピタルロスが生じてしまっては意味がありません。なぜ、金利差では圧倒的に魅力のあるドル買いが旺盛とならないのでしょうか。

【商品市況のみならず、株式市況にもリスクへの警戒が】

6月12日の米朝首脳会談の実現で、地政学上の警戒が薄れマーケットが楽観的ムードに包まれたのも束の間、トランプ政権は6月15日、中国からの輸入品500億ドル相当に25%の関税を課すと発表しました。もともと6月15日には詳細を公表するとしていましたので、驚きはなかったのですが、サプライズとなったのは、中国が即座に米国産の農産物や自動車、エネルギーなど659品目に25%の追加関税をかけると発表したことにあります。その規模は約500億ドル相当、米国による関税と同額であることから、報復措置であることは明らか。これを嫌気して、非鉄、貴金属、原油、大豆などのソフトコモディティなど商品市場は全面安の展開となり、その下落トレンドは現在も継続しています。さらに6月18日、トランプ政権は中国から輸入する2千億ドル(約22兆円)分の製品に、新たに10%の関税を上乗せする案を検討するよう指示、泥沼の様相を呈しています。2千億ドルは米国が2017年に中国から輸入した物品額の4割に相当する金額です。双方が主張するこれらの追加関税が現実に発動されれば、米中経済への打撃があまりに大きいということで、いよいよ米中の株式市場にも警戒の波が押し寄せています。ダウ平均は6月19日まで6日続落となっており、6月19日の上海総合指数は、2016年9月以来の3,000割れ示現となりました。ここ数年、中国の景気後退がくすぶり続けていましたが、上海総合指数の3,000割れは、投資家心理を一層冷え込ませる材料となっています。
米中の貿易交渉は、最初の発動期日とされる7月6日ぎりぎりまで続けられるとみられますが、落としどころをどのように模索するのかが注目です。

【ドイツ政治のリスク】

ドイツは2017年9月に総選挙を実施しました。連立協議が難航、再選挙の可能性まで取り沙汰されていましたが、3月、メルケル首相が率いるキリスト教民主同盟(CDU)と、友党だったキリスト教社会同盟(CSU)は、国政第2党・社会民主党(SPD)を迎え、連立政権を樹立。ようやく政治空白に終止符を打ったかに見えました。しかし、ここにきてCSU党首でもあるゼーホーファー内務相が他の欧州連合(EU)諸国で難民として登録された人を国境で追い返す権限を警察に与えると主張、これを内相権限で実施すると言い出しました。メルケル首相はこれを拒否しており、溝が深まっています。メルケル首相はEUの難民問題を取りまとめてきた経緯から他国との協議なしで移民規制策を導入するわけにはいかないというわけですが、結論は6月28、29日に開催予定のEU首脳会議後に先送りされることとなりました。メルケル氏はEU首脳会議で、この問題の合意を目指す構えですが、市場はこの問題の短期間の解決には懐疑的です。メルケル首相率いるCDUと、ゼーホーファー党首率いるCSUは、1949年からの長期連立関係にありましたが、ここに溝ができるとなると、連立政権維持が困難になるとの思惑につながります。ドイツの政情不安がマーケットの混乱につながる可能性は小さくない状況にあるのです。

こうした懸念にマーケットはリスクを小さくする動きに入っています。リスク回避相場ではドル/円相場は下落するのが常。為替市場は「金利差」だけで動いているわけではないのです。今は日米金利差よりも、米中独の政治リスクが金融市場を支配しているようです。

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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