イタリアの政局が混迷を極めています。秋にも再選挙実施の見込みとなっていますが、イタリア国債が売り込まれ金利が急騰する事態に、ユーロが売り込まれています。6月の米朝首脳会談に向けて緊張が高まる中、リスク回避ムードが強まってきました。6月は重要イベントが目白押しです。6月12日の米朝首脳会談、6月13日の米FOMCでの利上げ予想、そして6月22日のOPEC総会。どれもマーケットのセンチメントを大きく揺るがすリスクのあるビッグイベントですが、今回はOPEC総会と原油価格、そして米金利についての考察。

WTI原油価格は5月21日に1バレル72ドル台まで上昇しました。2017年にスタートしたOPECと非OPECの協調減産により、米国のシェール革命がもたらした世界の原油需給の緩みが引き締まってきたことが原油高の背景ですが、足元では米国トランプ大統領のイラン核合意離脱によるイランへの経済制裁再開でイラン産原油の供給リスクが台頭したほか、ベネズエラの経済危機による生産障害で需給のひっ迫感が強まったことが原油高に拍車をかけ、WTI原油価格は3年半ぶりの高値にまで高騰したのです。

ところが先週5月24日、ロシアのノバク・エネルギー相とサウジアラビアのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相が原油協調減産の緩和に関し協議したことが明らかとなり、一部報道では100万バレルの減産緩和との観測がでてきています。原油先物市場の投機筋の買い越しは過去最大レベル。投機筋が原油の買いポジションを整理するだけでも原油価格が大きく調整を強いられる可能性があります。原油価格が下落すれば、ダウ採用銘柄であるシェブロン(CVX)やエクソンモービル(XOM)などの石油関連株の下落を招き、ダウ平均の下落を誘発するリスクとなるだけでなく、米長期金利を引き下げる可能性も。米長期金利が低下すれば米ドル下落をもたらすリスクとなってきます。

年初からの下落で104円台まで下落していたドル/円相場は3月26日にボトムアウトし、2カ月弱の上昇トレンドを形成していました。この間、ドル/円相場の上昇を牽引してきたのは米長期金利(米国債10年物利回り)の上昇です。6月の米朝首脳会談に向け、北朝鮮の核問題は平和裏に解決できるとの期待からリスクへの警戒が薄れる中、日米の株式市場は上昇基調に。リスク選好ムードが強まり、米国債が売られ米国債利回りが上昇する流れとなったことで日米金利差が拡大し、これがドル/円上昇のけん引役となってきたのですが、先週末、長期債利回りは2.9%台へと急落。先週5月24日、トランプ大統領が金正恩朝鮮労働党委員長に6月12日の米朝首脳会談の中止を伝えたことが明かとなったことで、急激にリスク回避の機運が高まったことで株式などのリスク資産が売られ米国債に資金が戻ったことが長期債利回りを低下させたとみられます。ドル/円相場も、米金利低下に連れて大きく下落を強いられました。

長期債利回り低下のきっかけは、米朝首脳会談開催が危ぶまれるという地政学リスクの高まりであったかもしれません。しかし、同時に原油価格下落も米金利低下に拍車をかけた側面も大きいでしょう。原油は電力、輸送など幅広いサービス価格に影響するほか、プラスチック製品の原料でもあります。つまり、原油価格の上昇はインフレをもたらします。インフレをもたらすのですから、原油高=金利上昇の関係にあるということですね。逆に原油が下落するということは、原油の需要が落ち景気が悪化するリスクと考えることもできます。景気が悪化するということは、金利低下圧力となります。
もし、このまま原油価格の下落が続けば、米長期金利が大きく下がるリスクとなってきます。5月25日、トランプ大統領は6月12日の米朝首脳会談に向けて北朝鮮と対話を再開したことを表明しており、米朝首脳会談実施の可能性は残されていますが、それでも米金利が下げ止まることはありませんでした。原油下落に米金利が連れ安となった可能性が大きいと思われます。

米長期債利回りの上昇を材料に買われてきたドル/円相場は、利回り低下となれば下落を強いられるとみるのが自然です。そして、その米長期債利回りは原油価格動向がポイントとなってきます。今週からは原油下落ならドル/円下落の相関が強まるでしょう。

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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