米ドルの一人勝ち相場となっています。米ドルに対して、円をはじめ、ユーロもポンドも弱い。高金利である新興国通貨からの資金流出も続き、米ドルへと流入する流れが続いています。ドル/円相場は3月、105円台を割り込み104.60円台まで下落していましたが、足下では111円台まで上昇してきました。

米ドルが強い背景には米金利上昇が挙げられます。5月17日、米国の10年債利回りが3.10%を突破しました。為替市場はこの米金利上昇を素直に好感しています。2018年1月2日に2.4%台でスタートした米金利はドル/円が下落を続けた3月までの期間に2.9%台にまで上昇したのですが、この間ドル/円相場は米金利上昇と逆相関関係にありました。3月26日を境に米金利とドル/円相場は相関関係を取り戻したのです。では、このドル/円相場の上昇はどこまで続くでしょうか。

先週5月17~18日にワシントンで開催された米中通商協議を受け、市場は一気にリスクテイクに動いています。中国は米国の財・サービスの購入を大幅に増やすことで合意、米国のエネルギーや農産物の中国への輸出拡大につながる措置について協議を続けることで一致したとの共同声明が発表されました。具体的な内容でないことは気がかりですが、株式市場はこれを好感し大きく上昇しました。為替市場もリスク回避の動きが後退しており、市場は米金利上昇に素直に反応するセンチメントとなっています。米トランプ政権は6月12日に予定されている米朝首脳会談の成功に腐心しており、それまでの間は為替市場への介入はしないとの楽観も出てきました。実際、5月20日、ムニューシン財務長官は「米中貿易戦争をいったん保留にする」と述べたほか、為替相場についても「長期的に見れば強いドルはアメリカにとって良いことだ」とドル高を容認する姿勢を示しています。

6月12日という期日は、別の意味でも大変重要です。米国の6月のFOMCは6月12~13日。現在金利先物市場での利上げ織り込みは90%を超えおり、6月13日には米国の利上げ発表が見込まれています。米国は2015年12月に約10年ぶりの利上げに踏み切り、その後2016年12月、2017年3月6月12月、2018年3月と6回の利上げを実施しています。FOMCの利上げとドル/円相場の値動きを検証してみると面白いように、FOMCでの利上げの発表がドル/円相場の転換点となってきた経緯が確認できます。

2015年12月16日の利上げ発表でドル/円相場は小幅に上昇しましたが、翌営業日の12月18日から下落を開始し、12月16日には122円にあったドル/円相場は翌年6月の100円割れまで20円以上もの大きな下落を演じました。この時は原油価格の下落なども重なったのですが、利上げ前にドルが買われ過ぎた反動の「知ったら終い」という典型的な値動きでもありました。

2016年12月15日、2回目の利上げでも、発表の日にドル/円相場はトップアウトします。11月のトランプ大統領誕生からのトランプラリーで118円台まで大きく上昇していたドル/円相場は利上げの日を天井に翌年2月の111.50円台まで7円近くの下落となりました。この時も利上げが材料出尽くしの売りを誘引したものと思われます。

同様に2017年3月15日の利上げでもその日を境にドル/円相場は下落に転じました。

2017年6月14日の利上げだけは逆に、それまでドル/円相場が冴えない動きで下落していた反動で、利上げをきっかけにして上昇に転じています。

そして今年、2018年3月23日の利上げは記憶に新しいですね。ドル/円相場は104円台にありましたが、翌営業日である3月26日から上昇開始。現在の111円台まで一気にドル高となりました。2017年12月の利上げ時のみ、はっきりとFOMCの利上げ発表の日が転換点とはなっていなかったのですが、6回のうち5回は、ドル/円相場の転換点となってきた経緯があるのです。

ということは、前回の3月利上げの日から上昇が続いているドル/円相場は6月の次回のFOMCまで上昇が続く、と考えることもできます。2015年からの利上げとドル/円相場の値動きから、FOMCに向けてのイベントトレードを仕掛けている投機筋の存在があることがうかがえますね。

金利の低い円で資金を調達し、金利の高いドルで運用するいわゆる"円キャリートレード"が、足下の為替市場のテーマとなってきています。おそらく彼らは6月のFOMCまでは円売りドル買いのトレンドフォロー戦略で動いてくるとみています。

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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