米中貿易摩擦に絡む報道が重しとなっているものの、新年度入りで、ドル/円相場、日本株市場は下値が堅くなってきた印象ですが、4月17~18日には日米首脳会談という重要な政治イベントがあります。タイミング的に北朝鮮対応などを念頭に話し合いが持たれるものとみられますが、米中貿易摩擦が激化する様相を見せるなか、日本においても2国間の日米自由貿易協定(FTA)交渉に持ち込まれるリスクが意識され円高圧力が強まるとの警戒もあるようです。また、例年4月と10月は米財務省から「為替報告書(半年次為替報告)」が公表されることにも注意が必要です。例年4月15日頃公表されるのですが、今回は日米首脳会談前となることから、会談後に発表を遅らせるのか、あるいは、日米首脳会談交渉の武器として利用してくるのか、といった点にも注目が集まってきます。

そもそも為替報告書とは何でしょうか。

アメリカ財務省は1988年から毎年2回、議会に対して為替報告書を提出しています。この報告書の内容に基づいて、アメリカ議会は対米通商を有利にすることを目的に為替介入し為替相場を不当に操作している国を「為替操作国」と認定するのですが、「為替操作国」に認定された国はアメリカと2国間協議を行わなくてはならず、アメリカから通貨の切り上げを要求されたり、必要に応じて関税による制裁をされたりするため、各国の今後の経済活動を占う意味でも、為替報告書にどのように取り上げられるかはとても重要です。
為替報告書でいきなり為替操作国に認定されることはありません。まずは「監視リスト」に入れられます。2016年2月に成立した「貿易円滑化・貿易執行法」に基づいて、アメリカ政府が貿易相手国の為替政策について監視対象を定める「監視リスト」というものができたのですが、まずは、この監視リストで相手国の為替政策を牽制し、それでも改善がないようなら為替操作国認定となる流れです。

簡単に言えば、米ドルに対し通貨安政策を採っている国にはアメリカが制裁を行うというもので、過去には台湾・韓国・中国が為替操作国に認定されたことがありますが、1994年以降、為替操作国に認定された国はありません。
では、監視リスト入りとなる基準、条件とはどんなものでしょうか。
◆為替報告書における「為替監視リスト」認定の条件
①過去4四半期合計の対米貿易黒字が200億ドル超
②過去4四半期合計の経常黒字がGDPの3%超
③為替介入による外貨購入額が過去12カ月間合計でGDPの2%超
この3項目すべてに該当する貿易相手国に対しては是正を促し「1年経過しても是正されなければ」制裁対象として為替操作国認定となるとされています。
日本は民主党政権時の2011年11月を最後に、6年以上為替介入を実施していませんので③は該当しませんが、①と②の2つに該当しています。
中国は2017年の対米貿易黒字が2,758億1,000万ドルで過去最高を更新しており、①が該当していますが、2017年の経常黒字は1,649億ドルでGDP比では1.3%。②は該当せず。また中国は為替介入を積極的に実施している印象ですが、「人民元急落を防ぐ」介入であり、自国通貨安を誘導する目的の介入ではないため、該当しません。前回(2017年10月)の為替報告書で、「監視リスト」にあげられたのは中国、韓国、日本、ドイツ、スイスの5か国でした。

日本に対しては前回、「実質実効為替レートから見て現在の円相場は割安」だと指摘していました。2017年10月、ドル/円相場は112~113円台で推移していましたので、現在は幾分当時よりは円高になってはいるのですが、安倍首相の訪米前に、アメリカが為替報告書を貿易交渉の道具として公表するなら、4月15日頃のドル/円相場には警戒が必要となるかもしれません。ただし、この報告書による為替変動はヘッドラインリスク程度のものであると思っています。一時的な乱高下で、最終的にはトランプ政権との日米貿易交渉がうまく行くか否かが重要です。

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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