2018年新年度スタートです。2日月曜日発表された日銀短観では、大企業・製造業の景況感は昨年12月調査から8四半期ぶりに悪化、非製造業も6四半期ぶりに悪化しており、これまで改善が続いてきた企業の景況感が頭打ちとなるのか、不安が芽生える内容でした。雇用の改善から人手不足が鮮明となっているほか、原材料高に為替市場での円高が今後の収益見通し悪化につながっていると分析されています。
2018年度の大企業・製造業の想定為替レートは109.66円。足下のドル/円レートは106円台で推移しており、想定為替レートよりも円高となっています。先行きは110円程度まで円安方向に戻していくとの想定によるものとみられますが、先行きに楽観的な設定であることは今後の懸念材料でもあります。
想定為替レートとは、輸出や輸入企業が事業計画を立てる際や年度予算の設定をする際に前提基準とする為替レート。輸出企業は、輸出した先の外貨ベースでの売上を最終的には日本円で評価しますので、想定為替レートよりも円安が進んでいれば、利益のかさ上げ効果が見込めますが、想定為替レートよりも円高が進んでいれば収益は悪化、評価減が生じてしまいます。輸入企業は海外からモノを買うわけですから円高となる方が増益となりますね。日本は輸出企業が多く、円安ドル高となる方が日本経済にとってプラスとなるとされていることから、現状より円高気味に厳しめに想定為替レートを設定することの方が例年自然なのですが、、、。
想定為替レートと実際のドル/円レートが乖離してくると、事業計画や決算に影響が出て来ることとなるため、多くの企業は新年度の想定為替レートを保守的に現状より多少逆方向に動くことも想定して設定(輸出企業なら現状より円高気味に設定)するとされています。楽観的な見通しをベースにした業績計画を立てれば後から下方修正を迫られることとなるからです。投資家は下方修正を嫌いますから、激しく株が売り込まれるリスクへとつながってしまうため、下方修正を迫られるような事態となることは避けたいという心理が想定為替レートには反映されるのですが、今回は、現状の為替水準より円高ではなく、3円近くも円安ドル高の設定となっていることが気になりますね...。
これ以上円高ドル安にはならないと見込んでいるということですが、なってもらっては困る、というような心理を反映しているような気がしてきます。
企業の財務担当者は、想定為替レートを基準に業績見通しを出すのですが、決算がぶれるのを防ぐため想定為替レートを下回らないように為替市場でヘッジを行うこともあります。ヘッジがどのように行われるかというと、想定為替レート近くに近付けば見通し通りの決算が見込めるため、ドル売りを入れて、為替変動分のリスクを確定させてしまおうとするものです。つまり、これから109.66円までドル/円相場が上昇していく局面があった場合、そのレベルに近づけば近づくほど、企業の担当者は、これはありがたい、ということでドル売り円買いのヘッジを入れてくる可能性が大きく、ドル/円相場が上がりにくい構造となるということです。
相場というのは、そうなったら困るというプレイヤーが多く存在する市場では、困る方へと動いていくものです。困った事態となることを防ぐために構築されるポジションの偏りが投機筋に狙われやすくなる、ということですが、年度末決算時に向けて日経平均2万円割れを回避しようと年金が買い上げた日本株市場も同じ構造にあるのではないかと思われます。
年度末から4月新年度入りにかけて、日本株、ドル/円が勢い良く上昇しましたが、上がったところでは売りたいというニーズも多く存在することにも留意しておきましょう。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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