3月最終週です。日本の輸出・輸入など主要企業はじめ、銀行や生命保険会社などの機関投資家らが本決算を迎えます。2~3月、為替市場ではこの年度末決算に向けた売買が活発となることから円高圧力が増すというアノマリーがありますが、今年もアノマリー通りの値動きとなっています。

この時期は決算に向けて輸出企業のドル資金の円転(ドル売り・円買い=レパトリエーション)が出ることが円高圧力となりやすいとされています。海外での売り上げであるドルを、決算に向けて円に戻す際は、できるだけ「ドル高」の時に円に換えた方が、利益が大きくなります。よって為替動向を見極めながら、ドル/円相場が上昇した時に円転のドル売り円買いが出やすいということですが、今年は年初から一方的にドル/円相場が下落を続けており、輸出企業らが円に換えるタイミングを逃してしまっていると想定されます。どうしても円に換えなくてはいけないのに、タイミングを逸していた輸出企業らのドル売り円買いが、期末最終日ギリギリまで出てくる可能性も指摘されています。

一方で、期末までにドル買いが出るケースもあります。輸入企業が海外から製品を購入(輸入)する際は外貨(基本は基軸通貨である米ドル)が必要となりますが、その米ドルを調達する際は円を売ってドルを買うことになります。輸入企業の決算に向けて、こうしたドル調達が旺盛となれば、ドル買い圧力が強まることとなります。

また、海外での損失や賠償金の支払いが生じた企業などが年度内に損失を確定、計上する場合、ドル買いが一気に出てくるというケースもあります。近年話題となったのは、東芝やタカタ。海外での損失や賠償金の支払いはドルで行われるため、こうしたドルの調達が期末までに行われるのではないか、と2017年の期末には為替市場の話題となりました。

また、日本企業が海外進出する際のM&A、海外企業の買収が年度内に行われるケースなどもドル買いが旺盛となりますが、このように、輸出企業の円転需要と輸入企業のドル買い需要、あるいは損失補填のドル需要などなど、様々な「ドルを買わなくてはいけない向き」と「ドルを円に換えなくてはいけない向き」の特殊な売買が交錯する時期なのです。

今年は3月30日(金)が年度末の最終営業日ですが、午前10時前に銀行によって発表される公示レートが重要。公示レートは企業にとっては決算の指標として採用されるケースが多いため、様々な思惑が働きます。この時間に向けては、実需勢の売買、それを受ける銀行など金融機関の売買が交錯するため神経質な値動きとなりやすく、現状の大きな相場のトレンドとは違った動きが出る可能性がありますので、注意が必要です。

また、今週から欧州も夏時間入りとなりますね。夏時間のロンドンフィキシングは24時ですが、期末はロンドンフィキシングに向けても為替市場は突発的な値動きが大きくなるとされています。

ロコ・ロンドンのゴールド受け渡し価格の値決めがロンドンフィキシング価格で行われるほか、投資信託の設定の際に「信託基準為替レート」として採用されているロンドンフィキシングレート。特に月末や期末が重なると企業の決算や海外資産のレパトリなど諸事情が重なって、特殊な需給による値動きが見られることも。

ロンドンですから、英国企業はこの基準を使用していますが、世界の投資家や機関投資家などが保有資産を評価する時の基準値ともなっているため、ドル/円だけではなくて、ポンドやユーロなどの欧州通貨も大きく動くという特徴があります。投資信託設定の買い需要もあろうかと思いますが、解約に伴う売りが大きくなることもあり、どちらに大きく動くかはわかりません。

このように年度末は決算に向けて様々な需給要因が交錯するため、突発的にトレンドとは逆方向の値動きが出ることもありますが、大局の流れに逆らわず、こうしたノイズは、トレードのチャンスでもあります。今年はドル/円相場が年度末に向けて急反騰となるようなら、ドル/円の売りのチャンスでしょうか。欧州通貨はポンドやユーロが売り込まれる値動きが発生すれば買いのチャンスかな、と思っていますが、トレードはくれぐれも自己責任で!

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

TwitterAccount

@hirokoFR