ドル/円相場は3月2日の105.25円が今年の最安値ですが、105円台ですっかり膠着してしまっています。市場には円高論者が増えてきた印象ですが、ドル/円相場は105円を割り込んで円高が加速することはあるでしょうか?!

豪ドル/円、カナダドル/円相場はドル/円相場と同様につけていた3月初旬の安値を一足先に割り込む下落となっており、クロス円主導での円高圧力が強いことが確認できますが、何故ドル/円相場がまだ3月2日の安値を割り込まずに踏ん張っているのか。これは、ドルストレート通貨ペアを確認すれば理解できます。豪ドル/ドル、NZドル/ドル、カナダドル/ドルなどが顕著ですが、足下では米ドルは他通貨に対して上昇圧力が強まっているのです。

※クロス円=米ドル以外の外国通貨と日本円の組み合わせの通貨ペア

※ドルストレート=米ドルが絡んだ通貨ペア

つまり、今起きているのは「円高とドル高」です。円も買われやすく上昇圧力が強いのですが、米ドルもまた同様に上昇圧力が強まっているのです。これは教科書的に言う「リスク回避相場」時に起こる為替市場の典型的なパターンです。平常時には、基軸通貨である米ドルが、新興国資産や株式など、世界のリスク資産へと流れ込みます。これまで長いこと米国も低金利でしたから、利回りを求めて新興国やボラティリティの大きな株式市場へと投資されていたのですが、いよいよ米国の金利も上昇基調を強めていることから、米国への資金回帰が起こっているという指摘があります。あるいはトランプ大統領が掲げる保護主義は世界経済に悪影響とみられるほか、政権が安定しないことへの警戒などから今後のリスクを警戒してリスク資産の処分が進んでいるという見方もあるようです。要するにドルへの「レパトリエーション=本国への資金回帰」が起こっているとみられる動きです。

※ただし、ポンドとユーロに関しては19日、バルニエEU交渉官が英国のEU離脱移行期間の条件について市民の権利と離脱精算金など大半について完全に合意したと発表したことが好感され、急上昇。ポンドとユーロが上がったことで、米ドル安となっています。

そして、リスクが高まると買われるのが円。日本が海外に保有する資産は2016年末で349兆円と世界一。この資産が日本に回帰するとの連想が働くことから、リスクが高まると円買いが旺盛になるというのが為替市場での暗黙の共通認識となっているのですが、現在、同様の理由でドル買いも旺盛であるため、ドル/円相場は値動きが相殺されて105円台で膠着してしまっている、とみられます。

今週は21日に米FOMCで政策金利の利上げが予想されており、市場の利上げ織り込みから利上げがほぼ確実視されているため、波乱はないとみられていますが、イエレン氏に代わってパウエル新FRB議長による初会合となるため、市場関係者の注目は高まっています。注目はドットプロット。これはFOMCメンバーらの今後の政策金利見通しをそれぞれひとつの点(ドット)として散布図化したチャートのことですが、ここから今年何回の利上げが行われるかを推測することができます。現時点では3回の利上げが見込まれていますが、これが4回の利上げの可能性が高まる内容となれば、市場金利が上昇し米株が崩れるリスクがある、という見方が台頭していたのですが、昨日19日のNY市場で、米株は一足先に大きく崩れだしました。フェイスブックが米大統領選挙で利用者の個人情報を、トランプ陣営の契約したデータ会社に漏洩したという報道からフェイスブック株が大幅下落したことをきっかけに米株が全面安の様相。VIX指数も急上昇しています。VIX指数上昇は典型的なリスクオフ。ドル高円高圧力が強まるとみられますが、今日は同時にEUと英国のブレグジット交渉の進展が好感され、ポンドやユーロも買われていることから、欧州通貨に対してはドルも円も下落しており、その圧力は相殺されてしまい、膠着の様相継続という流れにあります。

マーケットには円高見通しが増えていますが、FOMC直前、様々なニュースが飛び出してなお膠着したままのドル/円相場。FOMCをきっかけに市場が思惑を強める円高進行に失敗すれば、短期的には思わぬショートカバーからのドル/円上昇があるかもしれません。

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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