米国が通商問題に本格着手したことが足下のドル安を招いているとするならば、昨今の為替市場は政治要因が色濃く反映されているとみることができますが、ますます日米の政治が為替市場のボラティリティを高めそうな気配が漂っています。
① 米朝首脳会談の可能性
9日金曜の日経平均の急騰とドル円の反発は、トランプ大統領が金正恩朝鮮労働党委員長からの首脳会談の提案を受け入れ、5月までに実現させたい意向を明らかにしたことがきっかけでした。2018年は1月大発会から日本株が急騰し日経平均の3万円も時間の問題かと思われたのですが、海外勢が日本株を買ったのは1月第1週だけ。1月第2週から2月最終週(~3月2日までの週)にかけての8週間もの間、海外勢は日本株を売り続けており、8週間合計での海外勢の日本株売り越し総額は現物と先物市場を合わせると7兆291億円にも上ります。米朝首脳会談のニュースを受けて、日本の有事、地政学リスクの後退が連想されることから、海外勢がショートしていたポジションを慌てて買い戻したことが日本株の急騰の背景。ドル円相場もこの日本株に連れる形で買い戻されたものとみられます。米朝首脳会談が実現するかどうか、まだ懐疑的な見方もありますが、実現に向けて環境が整っていくようなニュースが続くようなら、現先併せて7兆円にも上る日本株ショートの巻き返しが続くかもしれません。その際にはドル円相場の反発が大きくなる可能性があるとみています。
② 米国、鉄鋼アルミの輸入関税引き上げ
トランプ大統領はTwitterで、安倍首相と9日電話会談した際、日米の通商問題も議論したとした上で、巨額の対日貿易赤字は「不公平で持続的ではない」と不満をtweetしており、まだ円高リスクを残したままの状況です。しかし、トランプ大統領はメキシコ、カナダ、オーストラリアに関しては適用除外の可能性を匂わせ強硬姿勢を軟化させています。そもそもこのタイミングで鉄鋼の輸入関税引き上げに踏み切った理由として、今週13日に実施されるペンシルベニア州の補選が念頭にあっての政治ショーではないか、という指摘があり、もしそうであるならば、今週の補選で無事共和党が勝利を収めれば、日本に対しての強硬姿勢も軟化する可能性があるのではないか?という気がしないでもないのですが、こればかりはトランプ大統領次第。ペンシルベニア州ピッツバーグは鉄鋼産業が盛んで、トランプ大統領の今回の発言で株価が上昇している鉄鋼のUSスチールが本社を構えている他、アルミニウム大手のアルコアの創業の地でもあります。逆に補選で共和党が敗退すれば、中間選挙に向けてますます人気取りに過激路線を奔走するリスクがあり、どちらかというと共和党に勝利してもらった方が金融市場にとってはプラスであると見えます。
③ 森友決裁文書、財務省が書き換えを認める
財務省の決裁文書書き換え問題の行方次第では日本株やドル円相場の下落が懸念されましたが、週明け月曜の東京市場は、9日金曜の雇用統計を受けて米国株が大きく上昇した流れから日経平均が大幅上昇してスタートしました。監督責任を問われた麻生財務相は、午後の会見で引責辞任は考えていないとし、一部に内閣総辞職を求める声が上がっていたものの現時点ではその可能性が後退したようなムードです。ドル円相場は麻生大臣の会見前に円高に振れる局面もありましたが、会見を受けて買い戻され過度な円高進行を免れています。まだこの問題がどのような結末を迎えるのかわかりませんが、仮に麻生大臣が辞任に追い込まれ、安倍内閣の支持率が急落するようなことがあれば、海外勢の売りが加速する可能性には留意しておかねばならない一方で、逆に大事に至らず、米国株上昇に素直についていくような流れが見えてくれば、海外勢の売りの買い戻しが大きくなり、日本株上昇に連れてドル円相場も相応の反発がある可能性も否定できません。
通常であれば3月は日本企業が決算期に入るため、海外利益の国内送金が増え円高になりやすいというアノマリ―があります。また、IMM通貨先物ポジションのヘッジファンドなどの投機筋のポジションを確認するとドルロングが積み上がった状態が継続しており、このポジションが解消される過程では円高となる可能性が大きいと見られていますが、政治的要素が思わぬ急激な変動を招くこともあるかもしれませんので、この点には留意しておきたいですね。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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