生命保険会社など本邦機関投資家らは2017年度下半期、積極的に外債投資を増やす運用計画を発表していました。住友生命はドル/円が110円程度への下落局面では押し目での外債投資を検討、日本生命は新規で8,000億円程度、大半をオープン外債(為替ヘッジをしない外債投資、そのまま外債買いがドル買いとなるため、ドル/円の押し上げ材料)とする、などとしており、2017年9月のドル/円相場108円台から11月の114円台に向けての上昇時には、彼らのドル買いも影響していたと思われます。日本のゼロ金利政策下では、日本国債の運用で収益を上げることは難しく、利回りの高い米国債などの外債投資に大きく舵を切るしかないという本邦機関投資家勢のドル買いがドル/円相場を支えるだろう...。2018年年初にはこのような見通しが大勢でした。

しかし、足下ではドル/円相場が105円台まで下落。2018年年初は112円台で取引がスタートしましたので、わずか2カ月で7円近くの円高ドル安進行となっています。

財務省発表の対外及び対内証券売買契約等の状況を確認すると、国内の機関投資家は1月最終週から外債売り越しに転じています。1月最終週は8,649億円、2月1週に9,732億円の売り越しとなっており、トータルで2兆円近くの外債を処分していたことが確認できます。詳しい事情まではわかりませんが、本邦機関投資家勢の外債投資によるドル買いが、ドル/円相場の下値を支えるという期待は持てないのが現状のようです。

しかし、米国の政策金利は継続的に引き上げられ米長期債利回りも2.9%台へと上昇、日米金利差が拡大する中、なぜ円高ドル安が止まらないのでしょうか。

2015年から利上げを開始し3年目に入った米国の金融政策には新鮮味がなくなっている一方で、日本の金融政策には出口への催促が始まっています。2016年9月に導入された日銀の「イールド・カーブ・コントロール」政策は、国債の買い入れ量ではなく、日本国債の10年債利回りをゼロ近傍に固定するという金利にコミットした政策であり、これを粛々と実行する過程では、日銀が国債を買い入れる金額が減少しているのが実情です。これを金融関係者はステルステーパリングと呼んでいますが、日銀が否定しようとも状況としては日銀の金融政策は出口に向かっているとも言えますね。国債の買い入れ額が減少しているという事実がありながら、出口論については日銀自身が時期尚早と否定しています。つまり、日銀の出口戦略というのは、まだ材料として新鮮味が高いため、常に新しい材料をファッションとする為替市場において投機筋の円買いを誘引する大きなテーマなのです。2017年の為替市場でECBのドラギ総裁がテーパリングに言及したところから、ユーロ高が加速し大きなトレンドを形成したことが記憶に新しく、投機筋らは2匹目のどじょうを狙ったトレードに注力しているという可能性が大きいとみられます。そもそもイールド・カーブ・コントロールは国債買い入れ量から金利重視に舵を切った政策ですが、この金利に為替市場が反応しなくなってしまうと、全く意味をなさない政策となってしまいます。

もうひとつ。米国トランプ大統領は12日、4兆4,000億ドル規模の2019年度の予算教書を議会に提出しました。財政赤字は2018年度から倍増する見通しで、今後10年間では7兆ドルを超える赤字となる見込みです。昨年の予算教書では、今後10年間で米国の収支を均衡させる、黒字化させること目標としていましたが、、、?!

米国が黒字化を目指すのであればドル高シナリオもあったかと思いますが、今後10年で米国の債務は30兆ドル近くまで膨らむ計画では、株価への影響も懸念されます。今後の米国の赤字拡大を懸念する米国債売りがもたらした金利上昇は、株式市場の上値を抑えるだけでなく、金利に相関してドルが買われるというシナリオは描きにくい、ということです。

この2カ月で7円もの円高ドル安進行と、ややそのスピードが速かったため、足下ではドルの巻き戻しが見られますが、積極的にドルを買う材料が見当たらなくなってきています。ドル/円相場は100円方向へ下落するリスクもはらんでいると思われ、戻りは売られやすい地合いが続くものとみています。

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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