ゴルディロックスとか適温相場という言葉が躍る中で、株式相場も金利市場も、低ボラティリティ(相場の変動が大きくない安定した状態)が長期化すると誰もが信じていました。先週のVIX指数急騰までは...。

米国株、日本株市場の急落の背景には、VIX指数の急騰により、この指数に連動するETFなどの商品価値が暴落したことで、多くの金融機関が多額の損失を出したと推測され、この穴埋めのために、これまで利益を計上してきた株などの資産の売却を迫られているとの指摘があります。VIX指数は、米国の株式インデックスS&Pを対象とするオプション取引の値動きを元に算出されますが、簡単に解説すると保険料です。市場のボラティリティ(価格変動)が大きくなると保険料は上昇します。リーマンショックの時は80近くまで上昇、2015年のチャイナショックでは50近辺までの上昇がありました。2015年のチャイナショック以降、マーケットには大きな混乱がなくVIX指数は下がり続け、足下では10を切る水準にまで低下して落ち着いた値動きが続いていました。英国のEU離脱が決まった国民投票の時でさえ20前後、北朝鮮のミサイル発射に怯え続けた2017年は、ミサイル報道の度にVIX指数は上昇したのですがせいぜい15~16前後までの上昇にとどまり、その後は下落となるパターンが繰り返されました。そのため投資家らはVIX指数が15近辺まで上昇する度にVIX指数を空売りしていれば、利益が生み出せるという構造にありました。ところが今回、VIX指数が50近辺に急騰したことで、こうしたトレードで利益を手にしてきた投資家らのポジションが大きな痛手を被っているのです。

※ちなみに、トランプ大統領誕生の瞬間、VIX指数は24程度まで上昇しました。VIX指数はボラティリティが大きくなると上昇する仕組みであり、株の大きな上昇で急騰することもあります。

また、これも足下の市場でホットなキーワードですが「リスクパリティ戦略ファンドからの売り」も、下落のスパイラルを加速させています。リーマンショックなどの相場急変で大きな損失を被った投資家らは、相場の価格変動が大きくなったら自動的に高いリスクのある資産を売却し、債券などの低リスク資産のウェイトを高くするように機械的に調整するという戦略をとってきました。要するにVIX急騰時の相場急変に対応して損失を最小化しようというものです。こうした戦略をとるファンドが増えていたことから今回、VIX指数が急騰したことで、リスクパリティの売りが株式市場を大きく下落させる格好となったとみられます。

こうした「リスク回避」相場では、為替市場はドル高、円高になるというのが教科書的な動きです。特に今回は平時において全般ドル安進行のトレンドが続いていましたので、その巻き返しが起こっていると考えればドル高ですね。基軸通貨であるドルによる投資額は最も大きいため、こうしたリスクが勃発した際には、世界に投資されていた株などのリスク資産を売却し、それをドルに換える動きが加速します。日本株を売却し、これをドルに換えればドル高になりますね。この動きが新興国への投資などでも起きていることから全般ドル高となっているのです。

そして教科書的には同時に円高も起こるはずですが、足下ではドル/円は上値を切り下げる格好になっていますが、大きな円高にはなっていません。日経平均が1,000円も下落するなかで、レンジ内での動きを保っているのは何故でしょうか。

ひとつには、米国の金融政策は利上げのサイクルにあり、加えて資産買入れの縮小を粛々と実行に移している反面、日銀の量的緩和政策はまだ継続されるという政策の違いが意識されているのかもしれません。ドルによる海外投資資産が処分されて米国に還流するほどには、円による海外投資資産が日本に回帰する動きは大きくないと推測されますが、これも今後のマーケット動向によっては変化するかもしれません。株や債券市場のボラティリティが急上昇する中で、ドル/円相場が小動きであるというのは不気味ですね。小動きですので取引妙味も薄いマーケットです。VIX指数が高止まりを続けるうちは無理に取引に参加せず、資金を守ることも戦略のうちでしょう。

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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