みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。株式市場はゆっくりとしたペースではありますが上昇基調が鮮明になってきました。貿易摩擦や地政学リスクなど、まだまだ世界情勢は不安定ですが、徐々にその落ち着き所を探る動きも見え始めてきたように思います。株式市場は着実にその変化に反応してきているようです。一方、 前回のコラムでも触れましたが、企業業績においてはコストアップがかなり深刻な問題となってきたように思えます。これをデフレ脱却のサインと見るか、拡大してきた景気のターニングポイントと見るか、状況は非常に重要な分水嶺に差し掛かりつつあるようです。当面はその見極めに注力していきたいと考えています。
さて、今回は「SDGs」をテーマに採り上げたいと思います。SDGsとは、Sustainable Development Goalsの略で、一般には「持続可能な開発目標」と訳されます。この概念は2015年に国連サミットで採択されたもので、2030年までに達成すべき目標として定義されました。SDGsでは飢餓や貧困の撲滅から気候変動対策に至る17の目標が掲げられ、その目標毎に細かくターゲットが、合計169設定されており、より具体的に目標実現のための道筋が示されています。SDGs採択当時はあまり国内で話題にはなりませんでしたが、徐々に多くの企業がSDGsを念頭に置いた経営方針や経営目標を提示し始めるにしたがい、その注目度も高まってきたように思えます。これは、企業側が資本市場から求められているESGという考え方とSDGsに共通点が多く、漠然としているESGよりも、SDGsでは具体的なゴールを設定し易いという点が企業側の視点とマッチしたため、と云えるでしょう。厳密にはESGとSDGsは異なるものなのですが、企業としてはそれを一体的に捉えて経営に活かそうとする動きと云えるかもしれません。もちろん、ESG/SDGsいずれもが充実してマイナスになることはなく、こういった動きはむしろ歓迎すべきと筆者は考えます。
SDGsが企業側の視点とマッチしたのは、国連内部に設置された「ビジネス&持続可能な開発委員会」(BSDC)によって、その潜在市場規模は年間約1,340兆円にも達するとの報告が2017年になされたことが大きく影響しています。企業としては社会的な貢献のみならず、そこに十分なビジネスチャンスがあると具体的に捉えることができたのです。国連としては、SDGsを世界的に浸透させるためには、民間企業の積極的な関与が不可欠と考えたのでしょう。そして、民間企業もまた自社の成長・発展には社会的貢献を取り込んでいくことが重要という認識は一気に浸透することになったのです。もちろん、年間1,340兆円というのは相当に大きな額で、それ故にBSDCの報告に信頼性があるのかといった議論は残ります。しかし、この報告を仮に半分に割り引いても実に670兆円の市場とも考えることができ、企業として積極的に取り組んでいく価値は十分あるとの判断がなされたのだと想像します。
これだけ壮大な目標となれば、株式市場においても息の長いテーマとなっていく可能性は大きいと考えます。既に市場で取り沙汰される機会は出てきているものの、現在はまだ話題や漠然とした期待の域を出ていません。ですが、SDGsに関連するビジネスが今後現実のものとなってくるにしたがい、その市場の大きさが都度注目されてくるものと予想します。その際にまず注目されるのは、エネルギーやバイオといった最新技術が中心となるでしょう。現時点においても、既にSDGs関連で注目されるのはそういった企業群です。これらはまさにこのテーマの本命中の本命と云えるかもしれません。
しかし、それは誰でも思いつくことでもあり、このコラムの結論とするにはやや相応しくないように思えます。そこで、もう少し捻って考えてみましょう。実は筆者は、そういった最新技術を有さなくとも、既存技術や既存ビジネスの応用でSDGsに沿ったビジネスを展開できる企業もまた少なくないと考えています。例えば、新エネルギーの開発があったとしても、それらを社会インフラに導入していくには相応のリスクや障害を覚悟しなければなりません。そこには、商社のような事業投資家・流通機構を必要としたり、既存設備を新エネルギーに対応可能とするための部品・機器でブレイクスルーが求められるケースもあるはずです。これらは新技術への逸早い対応によって、既存事業であっても新市場拡大のメリットを享受できることになると考えます。本命銘柄発掘には困難が伴いますが、この方法であれば、新技術への対応を見ながら銘柄選択ができるため、相応の投資効率は期待できるのではないでしょうか。大化け銘柄を探す醍醐味とは大きく異なりますが、何が当たるかわからないテーマにおいて、むしろ既存事業に焦点を絞り込むというのも選択肢の一つとして認識しておきたいところです。
コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)
日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。