韓国では高齢者の貧困が深刻な問題となっている。韓国の66~75歳の相対的貧困率(注1)(2012年)は45.7%で、日本の同年齢区分の17.0%と比べて非常に高く、OECD加盟国の中でトップである。

高齢者の貧困の主な要因として、公的福祉制度が日本よりも未熟なことが挙げられる。韓国で国民年金制度が開始されたのは1988年、国民皆保険となったのは1989年で歴史が浅い。制度開始当初は保険料率が低く、給付率は高く設定されていた。その後、制度の持続性に対する懸念や世代間不公平等の問題などを背景に年金改革が実施され、これにともなって年金の所得代替率(注2)は70%(1988年)→60%(1998年)→50%(2008年)と引き下げられ、2028年には40%まで下がることとなった。注意すべき点は、この所得代替率は40年加入して満額受給される場合の目標値であることだ。実際には満額受給の開始は2028年以降であり、現状は年金加入期間が10年未満の受給者も多いため、給付額の所得代替率は上記の水準よりかなり低い。また、一昔前の韓国では、「子どもが親(高齢者)の面倒をみる」という儒教的価値観が存在したが、最近は教育費の高騰や勝ち組と負け組の格差拡大などにともなって、子どもに親の面倒を見る余裕がなくなっている。こうしたことを背景に、韓国では働く高齢者の割合が非常に高い。日本の後期高齢者に相当する75歳以上の労働参加率(注3)(2016年)は、韓国では18%と、日本より10%程度高い(図表1)。これはOECD加盟国の中でトップである。

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高齢者が経済的な必要性に迫られて働き続けるのと、自分の生きがいや健康状態に応じて働くことを選択するのとでは、当然後者の働き方のほうが社会の活力も増すのではないか。日本では政府が「一億総活躍社会」を掲げ、将来的には高齢者が定年を超えて働くことも前提に議論が進んでいるが、もし韓国のように高齢者の貧困が深刻化してしまうようなことがあれば、意図しない形で高齢者の労働参加が進むという皮肉な結果を生んでしまいかねない。逆に、公的福祉が過度に手厚くなると高齢者の労働意欲が削がれ、却って労働参加が進まないという可能性もある。超高齢化社会の先頭を走る日本は、高齢者が意欲を持って働くことのできる社会の仕組みづくりを世界に先駆けて進めるべきだろう。

注1.相対的貧困率は所得の中央値の半分を下回っている人の割合を示す。等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割った値)が全人口の中央値の半分に満たない世帯員の割合として計算される。
注2.所得代替率は現役世代の手取り賃金平均額に対する年金受給額の比率を示す。
注3.労働参加率は生産年齢人口に占める労働力人口(就業者+失業者)の割合を示す。

コラム執筆:堅川/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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