米国のトランプ大統領が、パリ協定離脱を6月2日に発表した。二酸化炭素を最も多く排出する中国は、同様な措置をとるのか、注目の的になっている。即ち、米国という「外圧」がなくなれば、世界一の石炭産出国である中国は脱炭素社会をやめるのではないか、と危惧する声が増えている。幸いにも、その答えは「ノー」である。

・実は世界最大の再エネ国
中国では、近年PM2.5(微小粒子状物質)に代表される大気汚染が深刻化している。従来の公害と違って、被害範囲はほぼ中国全土に渡り大変広いうえに、誰が見ても汚染の深刻さが一目瞭然であるため、国民からの不満の声が日増しに拡大している。目に見える形で対策を取らなければならない、という「内圧」を鑑みると、中国は環境対策の道をひたすら前進するしかない。政府は、主に3つの方面で対策に努めている。
第1に、汚染状況の見える化である。環境保護部は、公式サイトで全国367都市の大気汚染状況をリアルタイムに情報公開している。民間のサイトやスマートフォンのアプリでも、汚染状況が確認できる。北京にある米国大使館の観測数値については、政府公表値と食い違いがあり国内外で注目度が高いが、北京市政府はその数字も公表するようになり、透明性の強化を図っている。汚染が最も深刻な場合、屋内退避勧告や粉塵が発生する建築工事の停止命令などの緊急対策を発動する。
第2に、脱炭素社会を目指す。PM2.5の最大の発生源は石炭火力といわれている。中国では、発電量に占める石炭火力の割合は、ピーク時には84%に達していたが、ここ十年近くの間74%にシェアを落とした。それに代わり、水力、風力、原子力の順に、非化石電源のシェアが大きく拡大した。あまり認知されていないが、中国は実は再エネの先進国になっていた。風力発電については、2016年に241TWhの発電量で米国(229TWh)を抜き、世界一の風力大国となった。太陽光発電についても、同様に2016年米国を上回った(図表1)。

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・史上最強の環境規制が秋口に導入
第3に、環境規制の強化である。中国では2013年に「大気汚染行動計画」が策定され、2017年までにPM2.5等の大気汚染物を、2012年対比で10%以上削減することが目標に定められた。大気汚染の主な発生地である環渤海湾、長江デルタ、珠江デルタにおいて、各々25%、20%、15%程度と、より大きな削減枠が当てられた(図表2)。
石炭や電力を多く消費する産業について、大気汚染物質の排出を厳しく監視し削減を促す。例えば、小型の石炭ボイラの除去、石炭火力や鉄鋼、石油精製、非鉄精錬企業における脱硫装置の必須化、燃費の悪い自動車の淘汰が対象に挙がっている。
2017年は行動計画の期限が到来する年であり、目標を達成させるために、初冬から来年の春にかけて史上最強の環境規制が導入される予定である。詳しくは、大気汚染が深刻な28都市(北京・天津・河北省・山西省・山東省・河南省)において、暖房時期(2017年11月15日~2018年3月15日)になると、鉄鋼は50%、電解アルミは30%以上、アルミナは30%程度の減産が強いられる。ほかにも、化学やセメント、鋳造、自動車等の工業がターゲットに入っている。さらに、対策の結果をもって地方政府の人事を評価する。不合格企業については、リストを公表するうえで、業務改善を命令し、違法行為があれば警察に通報する。
今年は5年に一度の共産党大会の年に当たるため、今まで以上に本腰を入れている。強硬な工場稼動停止などは、経済や産業を痛めかねない。しかし、国民の健康被害への対策は怠ってはいけない。今年、環境対策の推進は大きな試練を迎え、それが新しい行動計画の策定に向けた試金石にもなる。

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コラム執筆:李 雪連/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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