世界経済が一段上のステージに上るには、「量」の拡大を追い求めるだけでなく、「質」を高めていくことが必要だ。それに向けて、2本の大きな旗を振っているのが日本である。

1つ目の旗は「質の高い経済連携」である。世界的に保護主義の台頭が懸念されているが、そうした中でも日本は「質の高い」メガ自由貿易協定(FTA)を推進し、自由貿易の車輪を回し続けている。メガFTAは、グローバルなバリューチェーンを促し、貿易・投資を活発化させるとともに、広域にわたり様々なルールを整備し経済活動を活発化させていく。環太平洋経済連携協定(TPP)は米国が離脱したが、5月にベトナムで開催された閣僚会合で11か国が早期実現をめざす方向で合意された。7月には日本で首席交渉官会合が開かれる予定であり、日本のリーダーシップに期待がかかる。日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)交渉は大詰めを迎え、7月の大枠合意も視野に入ってきた。東アジア地域包括的経済連携(RCEP)はTPPや日欧EPAに比べ自由化の水準は劣るが、今後の交渉で日本がTPPの合意内容などをベースに「質を高めていく」ことを期待する声も多い。日本はTPP、日欧EPA、RCEPの重なりに位置しており、日本が架け橋となることで、「質の高い」TPPなどのルールを、より広大なアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)や世界共通のグローバルなルールのベースに昇華させることもできるはずである。

2つ目の旗は「質の高いインフラ」である。「質の高いインフラ」は、環境にやさしく、安全・安心で長持ちし、ライフサイクルコストを抑えることができる。世界では今後も膨大なインフラ需要が生まれてくるが、温暖化への対応の必要性などを考慮すると、「質の高いインフラ」への移行は待ったなしの課題といえる。特にアジアでは今後都市化の進展などによりインフラ需要が急速に拡大し、その額は2030年までに26兆ドルに達するとのアジア開発銀行(ADB)の試算もある。先日安倍首相が協力姿勢をみせた中国主導の「一帯一路」も、アジアを中心に進められる構想である。こうした旺盛なインフラニーズに対する「質の高い」対応が求められている。

意義深いのは、このように日本が「質の高い」発展に向けた旗を、今後世界経済における存在感が、高まっていくであろうアジアの地理的状況下で振っていることである。そうした中で「質の高い」発展を推し進めることにより、その効果はより確かなものとなるに違いない。同時にこれは、日本企業にとって大きな商機になる。官民をあげて関連するビジネスチャンスを具現化していくことにより、世界経済のさらなる発展と日本経済の持続的な成長につなげることができよう。

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コラム執筆:金子 哲哉/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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