近年、中国は深刻化している大気汚染問題の解決にエネルギーのグリーン化を図っており、また、構造改革を実現するため製造業の高度化に力を入れている。こうした中、主に電気自動車(EV車)、プラグインハイブリッド自動車(PHV車)を指す新エネルギー自動車の発展が重要視され、国務院は2012年に「省エネと新エネルギー自動車発展計画(2012-2020)」を打ち出し、EV車、PHV車の累計販売台数を2015年までに50万台、2020年までに500万台にするとの目標を掲げた。様々な新エネ車の生産・販売・利用面における支援政策が打ち出され、主な方向としては、乗用車の新エネ化と都市交通機関用車の新エネ化を図ってきた。

現状を見ると、2015年中国自動車販売量全体(2,456万台、前年比4.6%増、中国汽車工業協会)は3年ぶりの低い伸びにとどまったのに対して、新エネ車の販売量(図表1)は対前年比343%増の33万台を達成した。中国市場での新エネ車の販売量は世界販売量の4割を超えたと言われ、中国が世界最大の新エネルギー自動車市場になった。

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新エネ車市場が盛り上がっている一方、こうした市場拡大には政策の働きが大きかったため、成長の質や継続性には問題がある等の指摘が浮上している。政策の影響力を説明する1つの例は新エネ車の販売分布。政府が新エネ車の購入者を対象に、自動車購置税(消費税)の免除や自動車購入・利用規制の解除(注1)等の優遇政策を実行した影響で、2015年は3/4以上の新エネ車が自動車購入・利用規制のある都市で販売された(上海自動車グループ総エンジニアである程惊雷氏)。また、商用車に特化して見れば、2015年商用車の生産量は全体の14%を占め、伸び率が対前年比▲10%と生産の縮小が加速した。それと対照的に、殆どは新エネバスである新エネ商用車の生産量は、新エネ車総生産量の半分ほどを占め、前年実績の約5倍まで増えた。その背景にあるのは、中央・地方政府がメーカーに払う高額な補助金(注2)制度。2013~2015年の補助金政策によると、6~8メートル長のEVバスを生産・販売する場合、車両の性能等を問わず中央政府がメーカーに対して一台あたり30万元(注3)の補助金を出す。更に、地方政府からも補助される場合もあり、メーカーは一台あたり最大60万元の補助金を得られるのだ。このような強力な補助金政策は確かに新エネ公共バスの普及を促進している一方、副作用として補助金詐欺(注4)も大量に発生し、質の担保のない新エネ車も市場に流通しているようだ。

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初期段階である中国の新エネ自動車市場にとって、発展を加速させるためには政策ドライバーの力が欠かせない。しかし、補助や優遇に頼りがちな成長を続けると、政府財政に負担をもたらすのみならず、長期的には過剰投資による生産能力過剰等の問題が発生する可能性がある。国家財政部部長である楼継偉氏が「2016年中国電動自動車百人会」(2016年1月23日)において、新エネ車の発展は永遠に政策頼りでは成りたたない、2021年以降の新エネ車の発展は市場に任せる、と宣言したのは注目に値しよう。

新エネ車産業の市場化に歩調を合わせ、政府による支援政策の調整も加速している。まず挙げられるのは、新エネ車生産・開発促進方法の調整。「2016~2020年新エネルギー自動車普及・応用に関する財政支援政策の通知」によると、今年から補助金の支給基準がより厳格化され、また適用企業に対する淘汰制度も新たに導入された。補助率が2年単位で徐々に引き下げられ、2019~2020年は2016年水準の6割程度まで縮小する。一方で、継続的な新エネ車生産・開発を促進するため、今後は欧米の先進的な経験を学びさらに市場化された促進制度の導入を検討している。政府自身もPPPモデルの導入で充電インフラの建設・運営を社会資本に開放するなど、様々な場面において更なる規制緩和を実施し、市場の力を活かそうとしている。

中国は「自動車大国」から「自動車強国」への転換を図っている中、新エネ車産業が重要な柱となっている。世界でも勝ち抜ける強い新エネ車産業を育成するために、量だけではなく質の伴う市場拡大が求められ、今後中国政府は市場との対話をより頻繁化し、企業の活動を誘導すると見られる。変化し続ける環境の中、政府の舵取りが試され、中国新エネ車産業の発展には引き続き注目する必要がある。

(注1)深刻な大気汚染・渋滞問題の緩和策として、一部の主要都市において自動車に対する「限購/限行令」(限購:購入制限、限行:走行制限)が実施された。2014年時点まで、「限購/限行令」を実施する都市は北京、上海、杭州、広州、貴陽、石家荘、天津、深センの8都市。

(注2) 新エネ車の購入を促進するため、新エネ車の生産企業を対象に、実際に販売した新エネ車の量によって補助金が支給される制度。消費者の支払金額=定価-補助金額。

(注3)1人民元=17.24日本円(2016年2月26日時点)

(注4)例えば悪質なメーカーが自動車の動力システムを簡単に改装し、質の悪い電気自動車を作って、自社又はリース会社と称するダミー企業に売り、補助金を騙し取る等の行為。

コラム執筆:劉 楊/丸紅株式会社 丸紅経済研究所 

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