先のCOP21では、先進国だけでなく途上国も含めた全員参加型で温暖化対策に取り組む新しい枠組み「パリ協定」が採択された。これを機に国際社会が低炭素化への動きを加速するとみられる中、石炭火力の利用国はどのような対策をとるべきだろうか。

(1)今後も世界の石炭火力設備は増える

石炭火力を削減する動きが、先進国を中心に拡大していくのは間違いない。しかし、再生可能エネルギーや、石炭火力よりもCO2排出量が少ないガス火力の導入がどれだけ拡大したとしても、石炭火力の利用はある程度認めざるを得ない。その理由として、石炭の豊富な資源量と地政学リスクの低さによる「供給安定性」、原油やLNGと比較して値段が安いという「経済性」が挙げられる。
国際エネルギー機関(IEA)の「World Energy Outlook 2015」のNew Policies Scenario(注1)によれば、2040年に世界の石炭火力による発電電力量は現在の1.2倍となり、設備容量ベースでは1.3倍(約620GW増)となる見通しだ。石炭火力の需要増を牽引するのは、主に中国やインド、インドネシアといった新興国である。特に産炭国でもあるこれらの国では、経済成長を維持しながら電力需要の増大に対応するために、石炭火力に少なからず依存し続けるのが現実的である。先進国の日本でさえも、2030年の望ましい電源構成として石炭火力の割合を発電電力量ベースで26%(現在は約30%)とする方針を掲げている。

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(2)高効率石炭火力の普及を進めるべき
そうした中で、日本を含む石炭火力利用国が今後とるべき対策は、少しでも発電効率が高く、CO2 排出量が少ない設備を選択することである。具体的には、以下に挙げるような対策が有効だと考える。

①国内の発電設備に対する高効率化の推進
まず、各国が自主的に国内の発電効率の悪い石炭火力をリプレース・廃止する取組みが必要だ。例えば、日本では、電力会社ごとに火力の発電効率を評価するベンチマーク指標を新たに導入することが検討されている。時期は未定だが、正式に制度の適用が開始されれば、発電効率の悪い設備は稼動停止に追い込まれる見込みだ。また、火力の新設については、環境評価の審査基準として「BAT(Best Available Technology)」と呼ばれる最新鋭の発電技術のガイドラインを規定している。
米国では、既存及び新設の石炭火力に対して、水銀・大気有害物質基準(MATS)を課しており、多額の対策費用が必要になった老朽発電所の閉鎖が進んでいる。さらに、新設に対しては、新規発生源業績基準(NSPS)(注2)という、実質的に二酸化炭素の回収・貯留技術を導入しなければクリアできない厳しい規制の導入も検討されている。

②発電効率の悪い発電設備に対する輸出規制の徹底

石炭火力の輸出に対して、欧米を中心に公的融資規制の動きが出てきた。米国に始まり、世界銀行や欧州投資銀行、欧州復興開発銀行が海外向け石炭火力の建設に対して融資削減を発表した。今年11月には、国際ルールを決めるOECD輸出信用部会で、発電効率の悪い石炭火力に対する公的融資の制限(注3)が合意された。
こうして先進国からの石炭火力の輸出が制限される一方で、中国などの新興国からの輸出は規制対象外となっている。今年9月の米中首脳会談で、中国は海外向け石炭火力への公的支援を厳格に管理することを表明したものの、未だ具体的な対策はとっていない。そのため、中国とその中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に対し、規制を強く訴えていく必要がある。

上記のような対策の実施には、現実的にハードルもあるため、優れたノウハウ・技術を有する日本が果たすべき役割は大きい。上記の①については、途上国が国内対策に積極的に取り組むのは難しいため、JICAによる法整備支援等が必要になろう。②については、今後も中国などから効率の悪い石炭火力が輸出され続ける可能性があるため、輸入国側に高効率発電設備を採用するコスト面でのインセンティブを持たせることが重要だ。日本メーカーが価格競争力を高めることはもちろんのこと、二国間クレジット(注4)の活用も有効であろう。日本政府が発電設備の導入にかかる初期投資費用の最大半額を補助することとなっている。それに加えて、高効率発電設備の導入によって発生したCO2排出削減量を日本と輸入国で折半する等のスキームを確立できれば、輸入国側のメリットも増える。

せっかく、COP21で各国がCO2削減目標を掲げたのだから、新興国・途上国の削減意欲もうまく引き出しながら、世界で高効率石炭火力の普及を進めたいところだ。

(注1)各国が発表している政策が今後講じられるとした場合のシナリオで、「World Energy Outlook」の中心的なシナリオである。

(注2)NSPSの法的基盤である大気浄化法(Clean Air Act)では、実用性が証明されていない技術を前提とした規則の制定は禁じられているため、現行規制案の合法性を疑問視する声もあり、高効率石炭火力で達成可能な基準に変更されるという情報もある。

(注3)超々臨界圧火力と低所得国・島しょ国向けの超臨界圧火力は規制の対象外である。

(注4)国連のCDM(クリーン開発メカニズム)という枠組みも存在するが、高効率石炭火力については対象国が石炭利用率50%以上の場合しか自国の削減量にカウントできないというルールが設定されている。

コラム執筆:堅川 陽平/丸紅株式会社 丸紅経済研究所 

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