1. Buy My Abenomics
「世界経済回復のためには、3語で十分です。Buy my Abenomics」。
2013年9月25日のニューヨーク証券取引所での安倍首相スピーチ(注1)は、そんなフレーズで当時のマスコミをにぎわせた。
しかし、このスピーチの中で首相が次のことにも触れていたのをご存じだろうか:
「福島の海では、未来の発電技術が開花しようとしています。『浮体式』の洋上風力発電技術です。現在、2メガワットクラスのものしか世界には存在しません。しかし、私たちは、今回、福島沖で7メガワットクラスに挑戦します。高さ200mの巨大な風車が、波の揺れにも耐えて発電する。世界に名だたる鉄鋼メーカー、重工メーカー、電機メーカーなどが参加する、日本の総力を結集する一大プロジェクトとなります。」
このプロジェクトは、沖合20kmに浮体式風力発電3基と 洋上変電設備1基(ふくしま絆)を建設する資源エネルギー庁の「福島復興・浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業」。第44回(注2)でもご紹介したが、経済産業省のこの事業を受託しているコンソーシアムの中で、プロジェクトインテグレーターの役割を担っているのが丸紅だ。
筆者は8月末に世界初となるこの7MW規模の浮体式洋上風力発電設備(ふくしま新風)を見学してきたので、状況をご紹介したい。
2. 力強く回る風車は福島復興のシンボルになる
ふくしま新風(写真1)は、小名浜港での組立作業の後、実証研究実施海域への曳航・設置作業が完了している。しかし、昨年11月の長崎から小名浜への浮体曳航中には、遠洋にあった台風20号が想定を超える速さで北上したため急きょ駿河湾に退避することになったり、本年夏は例年では考えられない数の台風が襲来したため福島沖での設置作業を都度止め小名浜港に退避することを余儀なくされたり、といった苦労も多かったそうだ。なんとか海の荒れる季節が始まる10月までに設置工事を完了することができたのは、これまでに実施した海洋工事の経験・知見を踏まえて工事の効率化を図っていたおかげだった。私が見学した際にはまだ風車は回っていなかったが、シケ気味の海上でもどっしりと安定して浮いていたのが感動的だった。12月から実証運転を開始し、年度内にフルパワーでの稼動達成を見込んでいる。
洋上変電設備と2MW発電設備(ふくしま未来)は既に稼働中で、ふくしま未来の羽根が力強く回転する姿はとても頼もしかった。5MW発電設備(ふくしま浜風)についても、アンカーとチェーンの敷設は今夏に実施済みで、沖合への設置スケジュールや実証事業全体の次年度以降の計画について関係者と調整しているところだそうだ。この実証研究の開始にあたっては、地元漁業関係者との調整が難航し、合意取得までに概ね1年を要したが、継続的な意見交換を経て、今では地元漁業関係者に研究を後押しして頂けるような関係にまで発展している。わが国の洋上風力発展には欠かせない「漁業との共存」のあり方を、少しずつではあるが形作れているようである。
3. 福島での丸紅の再エネプロジェクト
東日本大震災の被災地では、再エネを中心とした新たな産業集積・雇用創出による復興に大きな期待がかかる中、丸紅は他にも福島県内の再エネ案件を手掛けている。小水力発電では、100%子会社である三峰川電力(株)が下郷町において出力175kWの「花の郷発電所」の運転を本年6月に開始した(注3)他、猪苗代町等でも発電所の建設にむけた調査を開始した。水資源の豊富な会津地区で5か所以上の小水力発電所を建設するのが目標だ。また、いわき市においては、三峰川電力による出力2.2MWのメガソーラー「いわき発電所」(写真2)が2014年12月から商業運転を開始している(注4)。効率の悪さを覚悟のうえで8つのエリアにパネルを分散設置したのは、エリア内に立派な枝垂桜が自生していて、その多くを残したからである。さらに竣工式でも桜を植樹するなど、自然との共生を目指した設計が特徴だ。
筆者が見学に行った際は、国道6号線をバスで移動したが、国道沿いは既に除染も済んでいたし、高速道路のパーキングエリアは他と変わらぬ活気を呈しており、たいへん勇気づけられた。福島県は今年度「福島県再生可能エネルギー見える化推進支援事業」(注5)を実施している。この事業は来年度も実施検討中とのことなので、その補助金を活用してぜひ福島の再生エネルギー拠点を訪問し、福島の復興のエネルギーを確認してきていただくのはいかがだろうか。アベノミクスへの貢献にもなるはずだ。
(注1) 2013年9月25日「ニューヨーク証券取引所 安倍内閣総理大臣スピーチ」http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/0925nyspeech.html
(注2) 2012年09月18日 第44回「福島のV字復興:除染の進捗で本格的な復興需要が到来」
http://lounge.monex.co.jp/advance/marubeni/2012/09/18.html
(注3) 2015 年6 月19 日「福島県下郷町における小水力発電所稼動・竣工式開催の件」
http://www.marubeni.co.jp/news/2015/release/20150619.pdf
(注4) 2015年2月9日「福島県いわき市におけるメガソーラー稼動・竣工式開催の件」
http://www.marubeni.co.jp/news/2015/release/00004.html
(注5) 「再生可能エネルギー見える化推進支援事業補助金について」
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/110524.pdf
コラム執筆:松原 弘行/丸紅株式会社 丸紅経済研究所
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