TPPの世界経済への影響という側面を眺めてみたい。その観点でまず触れたいのは、TPPに加わったベトナムの英断である。ベトナムは共産党の一党独裁国家であり、国有企業の割合が大きい。そのベトナムがTPPに入ると、国有企業改革や外資規制緩和など、従前の経済基盤の大胆な変革が必要となり、それが相当な痛みを伴うことは想像に難くない。しかし、そうした犠牲を払ってでも、TPPの下で21世紀型とも言える市場ルールを受け入れ、ビジネス環境を整備することによって、海外から投資を集め、産業構造の多角化・高度化を進めようとしているのである。一皮剥けようとするベトナムの並みならぬ意欲が感じられる。

TPP加盟国の中では、ベトナムの他にも、新興国のマレーシアなどにおいて様々な改革が期待されている。さらに、TPPへの新たな参加に、韓国、インドネシア、フィリピン、タイ、台湾も可能性を示しており、これらの国々がTPPに入ると、一段と広い範囲に高水準のルールが浸透し、経済成長が促される土台が築かれていくことになる。

実際、これらを通じた世界経済への影響はどの程度だろうか。TPPのメリットは関税撤廃にとどまらず、投資やビジネスに関わるルールの整備など広範に渡り、その波及効果は大きい。米ブランダイス大学のピーター・ペトリ教授の試算によると、TPPが成立すると、2025年時点で世界経済は2234億ドル(約27兆円)押し上げられ、日本経済にはその半分近い1046億ドル(約13兆円、GDP比2%程度)という大きな経済効果が及ぶ。上述したように国内改革の進展が見込まれるベトナムでは、経済効果はGDP比13.6%にも達すると見込まれ、これはTPP参加国中最大である。ちなみに、この試算では、韓国もTPPに入った場合と、さらにインドネシア、フィリピン、タイもTPPに入った場合も含まれており、参加国が多くなるほど、その経済効果は大きいとの結果が示されている(表1)。

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IMFが近年世界経済見通し等の中で主張しているように、世界経済が潜在成長率の低下に直面する中、需要支援策と構造改革を組み合わせて、潜在GDPを引き上げることが現下の重要な政策課題となっている。その点で、世界経済の体質改善を行うというTPPの役割への期待は大きい。さらに、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)も実現し、その先のFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)となって結実すれば、アジア太平洋を中心とする一大経済圏が形成され、その経済効果は一層高まる(※)。日EU EPA、TTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ)など、他のメガFTAも相乗的に効果を発揮することになるであろう。TPPはグローバルな経済連携を促進し、世界経済を押し上げる、いわば「世界の成長戦略」として捉えたい。

※ペトリ教授による試算では、FTAAPによる世界経済の押し上げ効果はGDP比1.9%程度。

コラム執筆:金子 哲哉/丸紅株式会社 丸紅経済研究所 

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