原油を中心とした資源価格の低迷が続く中、資源産出国の多いサブサハラ・アフリカ諸国の経済に向かい風が吹いているのは御承知のとおりであろう。

IMFは10月に発表した経済見通しにおいて、2015年のサブサハラ・アフリカの実質GDP成長率を前年比+3.8%と予測している。これは、4月の見通し(+4.5%)、及び7月の見通し(+4.4%)から大きく下方修正された数字であり、サブサハラ・アフリカを取り巻く経済環境が年初よりも大幅に悪化している事が示唆されている(注1)。

勿論、サブサハラ・アフリカと言っても一括りにすることはできず、コートジボワール、エチオピア、モザンビーク、ルワンダ、タンザニアなど、比較的堅調な成長が見込まれる国も存在する。しかし、多くの資源国、とりわけ経済規模上位3か国のナイジェリア、南ア、アンゴラの経済は総じて低迷しており、これらの国の減速が大きく全体の成長率を押し下げているのが現状である(注2)【図表1】。

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3か国の抱える課題として共通するのは原油等の鉱物資源輸出の低迷と為替の下落である。

原油を含む鉱物性製品の輸出が約8割を占めるナイジェリア、同じく9割以上を占めるアンゴラでは、原油価格の下落により、2014年夏以降、輸出額が大幅に減少している。ナイジェリア、アンゴラとも政府歳入の大部分(7割~8割)を原油関連収入に依存しており、歳入の減少による政府支出の削減も経済の足を引っ張る状況となっている。南アは金、プラチナ、クロム、鉄鉱石、石炭などの多様な鉱物資源が輸出の4割以上を占めており、こちらも商品市況の低迷により輸出額が低迷している。【図表2】【図表3】

なお輸出先を見た場合、アンゴラと南アは、中国向け輸出がそれぞれ44%、29%と大きな割合を占めているため、中国の景気減速が両国にとっては特に大きく響いているといえる。(注3)

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為替については、管理変動相場制を採用するナイジェリア・アンゴラ政府は、それぞれナイラ、クワンザを切り下げるなどの対処に追われた。変動相場制の南アでも、中国の景気減速が鮮明になるとともに8月以降、14年ぶりの安値水準を記録するなど、通貨の下落が加速した。(注4)

このような、輸出の減少と通貨の下落といった外部要因に加え、以下のような各国個別の課題も景気の下押し圧力に拍車をかけている。

●ナイジェリア

ナイジェリアでは2015年3月末に大統領選挙が行われ、野党候補のブハリ氏(全進歩会議)が当時現職のジョナサン氏(国民民主党)に勝利し、政権交代が行われた(5月に就任)。政権交代に伴う大きな混乱は見られなかったものの、就任後もなかなか組閣を行うことが出来ず、10月に入りようやく閣僚候補者が固まりつつある状況である。ブハリ氏は多様な支持母体の支援を背景に当選したため、組閣後も引き続き政権運営に難しいバランスが求められるとみられる。また、期待されていたボコハラム対策が進まない事に対する不満や、70歳を超えるブハリ氏の年齢に対する懸念も出てきており、政治・治安リスクがナイジェリア経済の先行きに不透明感を与えている。

●南ア

南アにおける景気低迷要因としては、電力不足と労働問題が挙げられる。
電力不足については、需要の多い冬期の終了に伴い若干改善しつつあり、頻発していたLoad Shedding(計画停電)が実施されることは最近ではまれになっている。8月末に建設中の発電所(Medupi Unit 6 、800MW) が稼働を開始した事も改善に寄与している。従い、電力不足によって生産計画が狂っていた製造業への負荷は緩和されつつあると言えるだろう。

しかし、2015年9月末までに約100日程度Load Sheddingが行われたのが実態である。現在建設中の石炭火力発電がフル稼働するのは、まだまだ先の見込みであり(Medupi:2019年、Kushile:2021年)、電力不足の抜本的な解決にはしばらく時間を要するとみられる。

労働問題については、資源市況の低迷に伴い状況は芳しくない。2014年に生じたプラチナ鉱山のストライキのような大規模かつ長期のストライキは現状発生していないものの、10月に入り全国鉱山労働組合(NUM)が石炭鉱山部門でストライキを開始している。また、鉱山労働者・建設組合(AMCU)が金鉱山部門でストライキを行う可能性も示唆しており、予断を許さない。(注5)

●アンゴラ

アンゴラはナイジェリアに比べ政治的には安定しており、治安にまつわるリスクも低い一方、GDPの約4割が石油関連産業となっており、ナイジェリア以上に原油に依存した経済構造が課題として指摘される。

足もとの原油価格は、政府の予算前提である1バレル=40USDを上回っているため、経済がすぐに立ち行かなくなる状況に陥っているとはいえない。しかし、現在の原油価格水準は決して好ましいものとは言えず、原油価格の低迷により2015年は2009年以来の経常赤字に陥ることも想定されている。また、外貨準備の減少やインフレ率の上昇など各種マクロ指標が悪化しているのも現状である。このような状況をうけ、9月末には格付け機関のFitchがアンゴラの長期外貨建て国債格付けをBB-からB+に格下げした。それに伴い、政府は予定していた15億ドルのEuro bondの発行を延期しており、財政状況が今後ますますひっ迫し、さらに景気に下押し圧力がかかる事が懸念される。

以上のように、ナイジェリア、南ア、アンゴラの3か国は、短期的には改善が難しい課題をそれぞれ抱えている。また、原油やプラチナなどの鉱物資源に多かれ少なかれ依存する経済構造である以上、商品市況に景気が左右されることは避けられず、当面サブサハラ・アフリカの3大経済大国は厳しい経済状況が続く可能性が高いであろう。

 

  • (注1) 今回の改定見通しは、2009年の4%成長をも下回る数字となっている。IMFは2016年を4.3%、2017年を4.9%と予測し、緩やかに回復する事を見込んでいる。
  • (注2) IMF World Economic Outlook(2015 October) では、IMFの定義するサブサハラ・アフリカ45か国の名目GDP(1兆6800億ドル)の内、ナイジェリア(5,740億ドル)、南ア(3,500億ドル)、アンゴラ(1,290億ドル)の3か国で62.7%を占める。
  • (注3) 2010~14年平均。サブサハラ・アフリカ平均は22%。出所はWorld Trade Integrated Solution Database。
  • (注4) ナイジェリアは1USD=155ナイラから、2014年11月に1USD=168ナイラ、現在では1USD=197ナイラに公定レートが引き下げられている。ただし、市場流通レートは1USD=220ナイラを上回っており、政府は輸入規制などの措置によりドルの流出防止に努めている。南アの通貨ランドは9月の米国の利上げ見送り以降、足元では若干下落傾向に歯止めがかかっている。
  • (注5) AMCUの建設部門とみられる労働者がストライキを行い、弊社オフィス前の建設中のビルの施工が止まるというような事例も見られている。

コラム執筆:常峰 健司/丸紅株式会社 丸紅経済研究所 

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