直近のIMF予測によると、2015年のインドの実質GDP成長率は前年比+7.5%と予想され、1999年以来、16年ぶりに中国(同+6.8%)を逆転する見通しである。また、先月、国連が発表した予測では、インドの人口は2022年に約14.2億人となり、中国を抜いて世界一の人口大国になることが予想されている。豊富な人口に加え、平均年齢が27歳と中国より10歳も若いこともあり、中国経済が減速する中、インドの本格成長への期待が高まっている。

ここでは、インド経済の現状と将来性を中国と比較しながら考えてみたい。インドの現在の経済規模が約2.0兆ドルであるのに対し、中国は約5倍の10.4兆ドルである。インドの一人当たりGDPは1,627ドルにまで上昇しているが、中国は7,589ドルであり、経済格差はまだまだ大きい。しかし、中国経済が現在のインドと同規模だったのは僅か10年前の2005年頃であり、その時期から中国の大量生産・大量消費が資源価格の大幅な上昇につながった。では、近いうちにインドが中国に代わり、資源価格のドライバーになる可能性はあるのだろうか。

現在のエネルギー使用量や経済構造から判断する限り、インドが短期間で世界経済の成長エンジンに浮上するのは難しい様に思える。例えば、インドのエネルギー使用量は、原油1.8億トン、石炭3.6億トン、発電量1.2兆kWhだが、これはそれぞれ中国の1997年、1984年、1999年の水準に相当する。即ち、インドは経済規模では中国の10年遅れだが、エネルギー消費量では概ね20年の差がある。また、インドの現在の粗鋼生産は8,650万トン、鉄鉱石輸入量は1,500万トンに過ぎず、中国の8.2億トン及び9.3億トンのほんの一部である。

GDPとエネルギー消費の格差は、産業構造の違いによるものである。インドの産業別GDPの内訳は、農業17%、工業30%、サービス業53%であるのに対し、中国は農業9%、工業43%、サービス業48%である。インドは製造業の割合が小さい一方、農業やサービス業が相対的に高い。そこで、モディ政権は"Make in India"をスローガンに、製造業の誘致に積極的に取り組んでいる。この政策には事業開始手続きの簡略化、スマートシティや産業大動脈等のインフラの構築、防衛・鉄道・医薬品等における投資規制の緩和が含まれ、重点25業種も多岐に渡る。製造業の育成は豊富な若年労働力の受け皿となる雇用の創出にも不可欠であり、インド経済の持続的な成長につながることが期待されている。
エネルギー消費量が少ないのはインフラ不足の裏返しでもある。例えば、インドの発電設備容量は241GWと中国(1,198GW)の5分の1であり、中国の1995年頃の水準である。また、インフラ整備に必要な直接投資は345億ドルに過ぎず、これも中国(1,285億ドル)の4分の1で1990年代後半の水準に止まる。農村人口が多く、都市化が遅れていることもインド経済の制約要因のひとつである。インドは53の100万人都市を持つが、中国には142あると言われており、人口集積度合いにも違いがみられる。

インドは貧富の格差、未熟なインフラ、複雑な統治機構といった難題を抱えるものの、経済改革に着実に取り組み、成長率を高める段階に来ている。世界経済の中で中国並みの影響力を持つまでにはしばらく時間を要するが、購買力は現時点でも比較的高い。例えば、インドの直近の自動車販売台数は年間320万台だが、これは中国の2002年の水準である。製造拠点の集積や資源需要の拡大よりも先に、インドの消費市場が注目を集める可能性もある。

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コラム執筆:井上 祐介/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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