米国の再生可能燃料の導入目標が揺れている。2015年5月29日、米国の環境保護庁(EPA)は、2014年、2015年、2016年の再生可能燃料の使用義務量について提案を行った。内容は、2007 年に成立した再生可能燃料基準(RFS2)によって定められた使用義務量を、2割程度引き下げるというものだ。(表1、赤字部分が今回の提案)

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米国はRFS2のもと、再生可能燃料の使用量を2022年に360億ガロンまで拡大するという目標を掲げ、毎年の使用義務量を定めている。今回見直しが提案されたのは、この使用義務量だ。米国における再生可能燃料の主流はトウモロコシを原料としたバイオエタノールであり、主にガソリンに混合して消費される。しかし、同国のガソリン消費量は燃費改善などから2007年をピークに頭打ちだ。また、バイオエタノールをガソリンに混合・販売する設備が普及していないため、事実上、混合率は10%が上限と言われる。2014年時点で米国のガソリンに対するエタノール混合率は9.8%とほぼ上限に達しているが、RFS2の規定する使用義務量を達成することが出来ない。米国はこれ以上エタノール消費量を増加させることが難しい「ブレンドの壁」に直面している。

とはいえ、簡単に再生可能燃料の使用義務量を引き下げられない事情が米国にはある。もともと再生可能燃料は生産コストが石油燃料よりも高く、政策的に普及が進められてきた。同国でバイオエタノールが導入された目的は、中東への石油依存度削減といったエネルギー安全保障、大気汚染防止や温室効果ガスの削減といった環境対策、原料となる商品作物を通じた農村地域の経済活性化など、多様な目的をもつ。そのため、RFS2には、環境団体、再生可能燃料業界に加え、石油業界、農業団体など様々な業界が深く関わっており、利害関係は極めて複雑だ。

「ブレンドの壁」は以前から問題視されており、使用義務量の見直し提案は今回が初めてではない(注1)。EPAは2013年11月、2014年の使用義務量の引き下げを提案した。しかし、米国エタノール業界の反発や、RFS2に反対する米国石油協会(API)および米国燃料石化製品製造業者組合(AFPM)がEPAに対して起こしている訴訟の目処が立たないことなどから決定が見送られていた(注2)。

今回もEPAの提案に対する業界の反発は必至の状況だ(注3)。アイオワ州トウモロコシ生産者協会は、この提案はエタノールの原料となるトウモロコシ需要を3年間で13億ブッシェル(注4)減少させるものであり、農村の地域経済に悪影響を与えるものだという懸念を即座に表明した。石油業界は安全性や経済性を前面に出す形でガソリンに対するエタノールの混合率上昇に異議を唱えており、その立場を崩していない。また、RFS2の使用義務量を満たすための手段として取引が認められている再生可能燃料識別番号(RIN)(注5)のうち、エタノール対象分の価格がEPAの提案を受けて約4割下落するなど、制度自体の公平性が疑問視される状況も生じている。

今後、EPAは2015年6月25日に公聴会を開き、2015年11月30日までの決定を目指すとしている。実態に合わない制度の継続は将来的な混乱を増すだけで、どの業界にとっても結果的にはマイナスであろう。調整は難航しそうだが、一定の合意にむけた前進が期待される。

 

  • (注1)2013年も使用義務量の達成は事実上不可能であったが、達成期限を当初2014年6月末まで、最終的には2014年9末まで延長することで義務量自体の改定を回避した。
  • (注2)その後、2015年4月10日にEPAとAPIおよびAFPMは和解条件に合意した(Consent Decree)。その内容にEPAは2015年6月1日までに2014-16年の使用義務量を提案、2015年11月30日までに確定させるとあり、5月29日のEPAの発表はこのタイムラインに則って発表された。
  • (注3)ただし、使用義務量の増加が提案されたバイオディーゼルについては、全米バイオディーゼル委員会がEPAの発表を支持する声明を即日発表しており反発のみではない。
  • (注4)米国のとうもろこし年間消費量(2014年度は約118億ブッシェル)の約1割に相当
  • (注5)RINはEPAが再生可能燃料ごとに付与する識別番号。再生可能燃料の消費や取引の追跡を可能にするほかクレジットの機能を持っており、使用義務量を満たせない場合は購入により義務を達成することが認められている。尚、燃料の種類により別々のRINが存在する。

コラム執筆:村井 美恵/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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