中国は世界第4位の水資源総量を保有している一方、一人当たり水資源量は世界平均水準の約1/4でしかなく、深刻な水源不足問題を抱えている。また、工業・農業による汚染水の排出が有効に管理されていないといった問題があり、水質汚染は大気汚染よりも深刻な状況にあると言われている。こうした状況に対して、近年中国政府は、環境保護、環境ビジネスに関連する法律や政策を次々と打ち出した。その結果、水ビジネスをめぐって、次のような3つの大きな「環境」変化が起きている。
1つ目は、汚染物排出企業が環境保護法に違反した場合のコスト上昇である。中国政府は制定から25年を経った「環境保護法」(以下は「環境法」と省略)を2014年4月24日に初めて抜本的に改正した。旧「環境法」と比べた改正点を挙げれば、環境法違反企業に対する罰則の強化が1つの大きな特徴だと言える。例えば、汚染物質を違法排出した企業が過料を科され是正命令に従わなかった場合、1日単位で連続して処罰が行われ、その過料が加算さていく制度が規定されている。また、同年10月、中国環境保護部は新たな環境法の実施効果を担保するため、上述の1日単位での連続処罰制度の詳細措置に加え、封鎖・差押え、生産制限・生産停止、企業・社会団体による環境情報開示、との合計4つの詳細措置を公布し、「史上最も厳しい」といわれた環境法に牙を持たせた。こうした法改正の影響で、企業が環境保護措置の経済性を再考しなければならなくなり、環境法の改正は環境ビジネス全体の拡大に好「環境」を与えると思われる。
2つ目は、環境基準の引上げによる投資需要の拡大である。新たな環境法の施行に続き、国務院は2015年4月16日に「水十条」と呼ばれる「水質汚染防止行動計画」を頒布した。同計画は、2020年、2030年までの中長期の水質汚染改善の目標(図表)を掲げ、また汚染物排出の全面的コントロール、経済構造調整の推進、水資源保護の強化、先進技術の導入、市場メカニズムの活用等、10方面において合計258項目の措置を明確にしたものである。「水十条」による経済効果について、環境保護部は、約2兆元の投資 (そのうち環境保護設備及びサービスへの投資は約70%)が必要になる、と分析した。それに対し、20社の中国環境企業によって立ち上げられたE20環境研究院という機構を始め、一部の業界専門家は、2020年までに約4~5兆元の投資が必要と予測し、市場は既に盛り上がっている模様である。今後の具体的な重点分野及び主要な投資拡大方向に関しては、工業(製紙、コークス精錬、アンモニア肥料、非鉄金属、染色、製革、農産品加工、農薬等)汚水処理の専業化・集中化にむけた設備改造、大型・中堅都市汚水処理場のアップグレード、中小都市や農村での汚水処理場の建設、汚泥無害化処理、再生水利用、水環境モニタリングネットワークの構築といった分野での投資拡大が期待できる「環境」となった。
3つ目は、水ビジネスへの参入モデルの刷新である。水ビジネスにおける膨大な投資需要に対して、政府はPPP(官民パートナーシップ)を始めとする新たなモデルの導入を提唱し、積極的に社会資本を巻き込もうとしている。2015年4月9日、財政部及び環境保護部は「水汚染の予防・処理分野での官民パートナーシップの実行推進に関する意見」を発表し、地下水環境の修復、農業生産による汚染の防止・処理、工業園区の汚染水排出の集中処理、都市部の汚染水処理(再生水利用、汚泥無害化処理を含む)・下水道管網等、合計18分野でのPPPを推進する方針を示した。また、4月21日の国務院常務会議では、PPP制度の基本ルールとして、「インフラおよび公共事業の特許経営管理弁法」が承認され、外資を含む社会資本が水事業等インフラ・公共事業に参入するための「環境」が徐々に整備されていくと予測される。
中国の水ビジネスは、産業の高度化、成熟化へ転換を必要としている。そうしたニーズから、優れた環境技術を持つ日本企業にとっても、大きなチャンスが期待できる「環境」が整いつつあるだろう。実際、日本の先進的な技術を導入するため、4月16日中国科学院北京国家技術移転センターと日中文化経済交流発展基金会が共同で「中日経済技術協力プラットホーム」を立ち上げることに調印し、今後は省エネ・環境保護等、中国企業が必要としている分野の技術移転に注力すると表明した。こうした取組みが日中水ビジネス企業の交流を活性化すると期待される。
コラム執筆:劉 楊/丸紅株式会社 丸紅経済研究所
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