世界の成長センターの代名詞にもなった「BRICs」ですが、成長に翳りが見られる国が出てきています。欧米との対立等を背景に景気悪化が続くロシアが耳目を集めていますが、ブラジルが厳しい景気低迷に直面している事実は案外見落とされがちかもしれません。

2000年代後半、リーマン・ショックに至るまで、ブラジルは平均的に5%近い成長を続けていました。ところが、2011~13年の直近の3年間は平均2.1%と低く、さらに2014~2016年のIMFの予測値は、2014年が0.1%、2015年が0.3%、2016年が1.5%で、平均0.6%でしかありません。労働人口の伸びなど成長のリソースからみたブラジルの潜在成長率はなお3~4%はあるものと考えられていますが、それを実現できない状況がしばらく続いており、また今後もしばらく続いてしまうということになります。

ブラジルの成長制約の要因は、いわゆる「ブラジル・コスト」として有名な構造問題に求められます。ブラジル・コストはやや使い古された感のある用語で、近年になって顕著に深刻化した問題というわけではありません。ただ、リーマン・ショック前までは、資源ブームの追い風を受ける中で、そうした成長制約の下でも比較的高い成長を続けることが可能でした。一方、ショック後は、資源ブームの終焉により、ブラジル・コストの悪影響がより目立つようになっているといえるでしょう。

代表的なブラジル・コストとしては、鉄道・港湾等のインフラの不足、高い税率・複雑な手続き等の税制度、過剰な労働者保護・社会保障といったものが挙げられます。こうした問題は、ブラジルの歴史の中で長い時間をかけて生じた問題(あるいは解決されなかった問題)でもあり、一朝一夕に改革が進展することは期待できません。昨年10月に実施された大統領選挙において、現職のルセフ大統領が改革派のネーベス候補を破り、再選を果たしたことも、改革の機運を削いでいるといえます。

また、ブラジルは、景気をさらに悪化させかねない2つの差し迫ったリスクに直面しています。1つは、国営石油会社ペトロブラスが、ブラジル史上最大と呼ばれる汚職事件の渦中にあることです。契約の見返りに建設会社から賄賂を受け取り、政治家に流したとされる疑惑で、多数の政治家や大手建設会社を巻き込む捜査が進められています。インフラ投資の遅延や、ルセフ政権の弱体化に伴う政策の停滞など、様々な悪影響が危惧されています。

もう1つのリスクは、財政悪化に伴う格下げのリスクです。現在、S&Pはブラジルのソブリン格付けをBBB-(投資適格の中の最下限)に設定しており、1ノッチの格下げで投資不適格に転落してしまいます。資金調達面等で、投資不適格になることの悪影響は大きいため、ルセフ大統領もこの問題を深刻に受け止めており、財政規律を重視するレヴィ財務相を指名するなど、真剣に財政再建に取り組む姿勢を示しています。もっとも、上記汚職問題の影響等もあって、ルセフ大統領が議会と折り合いを付けることが難しくなるなど、順調に改革が進むかどうかは見通し難い状況です。

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上記のようなリスクは、短期的なブラジルの景気動向にネガティブなインパクトをもたらす可能性がありますが、対外債務比率が低く、十分な外貨準備を保有している現在のブラジルでは、かつてのような深刻な債務危機・経済危機につながる可能性はほとんどないと考えられます。民主的で安定したガバナンスが定着している国であり、2億人の人口を有し、1人当たりGNIが1万ドルを超える経済の魅力は、今なお損なわれてはいません。むしろ、一見投資の魅力が翳っているかのように見える現在こそが進出のチャンスだとする声すら聞かれるところです。その潜在的な投資機会を活用するためには、最近の不調に右往左往せず、我慢強い取り組みが必要といえるかもしれません。

コラム執筆:安藤 裕康/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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