わが国では、将来のエネルギーミックスに関する議論が始まっており、5月にも最適な電源構成についての結論が出される見込みである。電力システム改革や再生可能エネルギーの導入等、多くの不確実要素がある中での計画策定は容易ではない。そこで、海外の先行事例が参考にされるが、とくに取り上げられることが多いのがドイツである。

ドイツでは、1998年に小売の全面自由化、2003年に再生可能エネルギーの固定価格買取制度を導入している。また、2022年までに脱原発、2050年までに再生可能エネルギーの発電比率を80%に高めること等を目標に掲げている。政策効果により、発電量に占める再生可能エネルギーの割合は、2005年に10%、2011年に20%を超え、2014年は26%で褐炭を上回る最大のエネルギー源となった。一方、電気料金は上昇しており、Eurostatの2014年上期のデータでは、家庭用単価が約30ユーロセント/kWh(EU平均比46%高)、産業用は21ユーロセント/kWh(同30%高)となっている。

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ドイツの取り組みでは電気料金の動向のみが注目されがちだが、成果もでており、参考にすべき点が多い。例えば、再生可能エネルギーの導入と経済成長の両立である。ドイツは、高い電気料金を受け入れながら、停滞するユーロ圏の中で着実な経済成長を堅持している。エネルギー多消費型産業には再エネ賦課金の減免措置を幅広く導入し、産業競争力への影響を最小限に留める工夫もある。次に、エネルギー自給率の向上である。太陽光、風力、バイオマス等の多様なエネルギー源の活用により、化石燃料の対外依存を抑制している。また、温室効果ガスの削減も挙げられる。2014年の温室効果ガス排出量は前年比3.3%減の9.2億トン、1990年比では26%だった。直近では石炭発電の増加により2020年目標の40%減とは開きがあるが、減少傾向にある。
また、電気料金の上昇は固定価格買取制度の導入時点で予想されたことでもある。家庭用の電気料金の内訳をみると、再生可能エネルギーの本格導入後も発電コストはほぼ横ばいで推移している。一方、再生可能エネルキーの賦課金やVAT(付加価値税)等の租税公課が拡大しており、全体の半分以上を占めている。買取期間の終了後の電気料金は従来の水準に戻ることが期待され、高い電気料金が定着するわけではない。

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エネルギーミックスの策定においては、安全性に加え、エネルギーの安定確保、経済性、環境性のバランスが重要とされるが、全ての要素を同時に満足させることは難しい。ドイツでは、温室効果ガス排出量の削減に重点を置き、当面の電気料金の上昇を受け入れながら、脱原発や再生可能エネルギーの導入拡大を進めている。わが国も、ドイツの事例を参考に、まずはエネルギー政策を通じてどの様な社会を目指すのかを考える必要がある。

コラム執筆:井上 祐介/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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