世界経済の回復が緩やかなペースにとどまっている。主要各国・地域で緩和的な金融政策がとられ、成長エンジンへの燃料注入が続けられてきたが、十分な推進力が得られたとは言い難い。成長力を根本から引き上げるための何かが必要だ。

その役割が期待される施策の一つが「構造改革」である。構造改革は、政治・社会制度や産業構造などの抜本的な改革を推し進めること。これにより成長の阻害要因を取り除くことができれば、成長エンジンの推進力を高めることが可能になる。

注目したいのは、構造改革の必要性が世界中で取り沙汰されている点である。日本では、少子高齢化という逆風の中、経済を本格的な成長軌道に乗せるには、従来の制度や慣習に縛られない新たな取り組みが欠かせない。法制度や規制をこれからの社会にふさわしい形に変えていくとともに、幅広い分野でイノベーションを起こし、未来志向の変革を続けていくことが、持続的成長の鍵となる。

堅調な成長を続ける米国でも、高齢化に伴う潜在成長率の低下などから、構造改革の必要性が指摘されている。ハーバード大学のローレンス・サマーズ教授(元財務長官)は「長期停滞論」を唱え、インフラ投資の有効性を強調しつつ、構造改革により労働者や資本の生産性を高めることが肝要であると述べている。

低成長が続く欧州でも構造改革が必要であることは論を俟たない。経済が低迷する欧州第2の経済大国であるフランスなどにおいて、構造改革を求める声が高まっている。

中国でも事情は異なるが、構造改革が必要とされている。成長低下という「新常態(ニューノーマル)」の下、中所得国のわなを克服し、持続可能な成長モデルを確立するには、抜本的な改革が不可欠となる。改革の方向性は2013年の中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(3中全会)で示され、すでに着手されている。

各国・地域の状況は様々であるが、共通しているのは、これまでの仕組みの単なる延長では対処できない限界や不都合が見えてきたことだ。これらに対して求められるのは、その場しのぎの応急処置ではなく、新たな社会の姿を見据えた抜本改革である。改革により社会の古い皮が剥けていけば、世界経済の一段上の成長ステージが見えてこよう。

コラム執筆:金子 哲哉/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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