2014年夏以降、原油価格の下落が続いている。その結果、ロシアでは変動相場制への移行とルーブルの急落、ベネズエラではデフォルト懸念など、世界の各所で影響が見られている。【図表1】

20150106_marubeni_graph1.jpg

原油価格の下落は、日本のように原油などの鉱物性燃料や石油製品を大量に輸入している国にとって、輸入物価の下落(交易条件の改善)を通じプラスに働く可能性がある。
一方で産油国にとっては歳入が減少するためマイナスに作用するものの、影響の度合いは国によって異なる。サウジアラビアなど、中東産油国の多くは、潤沢な外貨準備や対外資産を持っており、すぐに深刻な状況に陥る可能性は低いであろう。しかし、財政状態の厳しいベネズエラや経済制裁下のイランなどにとっては、現在の水準は国内経済を大きく揺るがすリスクがある。ロシアについても、一定程度の外貨準備があるものの、大幅なルーブルの下落や経済制裁の継続により厳しい状況にあるといえる。

それでは、高成長の続くサブサハラ・アフリカ(注1)において原油価格の下落はどのような影響を及ぼすであろうか。以下、サブサハラ・アフリカにおける原油を取り巻く環境を確認し、その影響について検討する。

サブサハラ・アフリカの地域別原油・石油精製品輸出入データ(【図表2】)をみると、ナイジェリアを擁する西アフリカは原油輸出地域であるものの、同時に石油精製品を輸入している。また、東部・南部アフリカは原油石油製品ともtotalで輸入超過となっている。例えば南アフリカ共和国では、輸入総額の約18%を石油関連製品が占めているなど(2013年)、原油価格の下落はインフレに苦しむサブサハラ諸国の経済にとって総じてプラスに寄与することが想定される。

20150106_marubeni_graph2.jpg

一方で、サブサハラ・アフリカ全体は世界の約7%の原油を生産しており、上述ナイジェリアを筆頭に、アンゴラ、赤道ギニア、コンゴ共和国、ガボンなどの国が原油の生産・輸出を行っている。【図表3】

20150106_marubeni_graph3.jpg

特にナイジェリア、アンゴラはOPECにも加盟しており、世界の世界生産上位15か国に名を連ねる主要産油国である(注2)。これらの国は原油の生産を背景に発展してきた結果、名目GDP規模がサブサハラの上位に位置している。そのため、両国の経済動向はサブサハラ全体の経済にとっても影響を与えうる。【図表4】

20150106_marubeni_graph4.jpg

国家全体の歳入のうち、約7割(2014年予算)を原油・ガスに依存しているナイジェリアでは、既に原油価格の下落によって政府歳入が減少している。それに伴い、通貨ナイラの売りが生じ、ナイラが下落した。【図表5】

20150106_marubeni_graph5.jpg

その結果、政府は管理変動相場中間値を1USD=155ナイラから、1USD=168ナイラに切り下げ(変動幅を±3%から±5%に拡大)、同時に通貨防衛のため、政策金利を12%から13%への引き上げるなどの対応を余儀なくされた。

また、政府は2015年予算において、原油ベンチマークを2014年の$77.5/barrelから$65/barrelに引き下げている。加えて歳入の減少に対処するため、2015年には政府はプライベートジェット等の奢侈品に対する課税強化や、政府調達や出張の凍結による歳出削減策を取る予定である。課税強化や政府支出の削減は当然景気の下押し材料となり、2015年に大統領選挙を控える同国政府にとって原油価格の低迷は非常に頭の痛い問題である。

政府歳入の約75%を原油・ガスに依存するアンゴラでも、既に市中でのドル現金調達が難しくなっているとの指摘がある。政府は予算のベンチマークを2014年度の$91/barrelから2015年度は$81/barrelに引き下げており、それに伴い、公衆衛生に関する政府支出削減、インフラ整備関連プロジェクトの予算化が先送りされるなどの状況が見られている。

原油価格のネガティブな影響はナイジェリア、アンゴラといった現在の大産油国のみにとどまらない。アフリカにはガーナ、コートジボワール、ケニア、南スーダン等、新規の油田開発が進んでいる国がある。採掘コスト、採算の取れる原油価格の水準等は各国、各案件によって異なるとはいえ、原油価格の低迷が続けば、開発プロジェクトの進捗に影響が出る可能性がある。また、モザンビーク、タンザニアなどでは大規模なガス田の開発が進んでおり、原油価格とガス価格が連動している事が多い以上、ガス開発が見込まれる国においても原油価格下落の影響は波及しうる。

原油価格の下落によりプロジェクトの進捗に影響が出た場合、資源自体の開発だけでなく、資源を取り巻くインフラ(道路、港湾、パイプライン等)の開発にも影響が出る事が考えられる。アフリカの成長を支える要素の一つである「インフラへの投資」が鈍化し、資源国だけでなく周辺諸国にもマイナスの影響が波及するリスクが存在する。

短期的には原油価格の下落は、産油国以外のアフリカ諸国にとって物価の下落という点でプラスになるだろう。しかし、価格の低迷が続くと、新規プロジェクトの遅滞、それに伴う投資の鈍化が懸念され、原油・ガスの生産国(生産予定国)だけでなく、サブサハラ全域にネガティブなインパクトとして跳ね返ってくる。したがって、サブサハラ諸国の人々にとっては、現状の資源価格低迷は手放しで喜べるものではないといえるだろう。

(注1)アフリカ大陸のうち、サブサハラ砂漠以南の地域であり、国連定義では、アルジェリア、エジプト、リビア、モロッコ、チュニジア、西サハラ以外の国を指す。

(注2)2013年の世界生産量ランキングでは、ナイジェリア:11位、アンゴラ:14位となっている。

コラム執筆:常峰 健司/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

■丸紅株式会社からのご留意事項
本コラムは情報提供のみを目的としており、有価証券の売買、デリバティブ取引、為替取引の勧誘を目的としたものではありません。
丸紅株式会社は、本メールの内容に依拠してお客様が取った行動の結果に対し責任を負うものではありません。
投資にあたってはお客様ご自身の判断と責任でなさるようお願いいたします。