シェールガスといえば北米での開発や生産が注目されているが、実は、技術的に回収可能なシェールガス資源量の世界一(図1)は中国である。今回は、中国におけるシェールガス開発の現状と政策動向を解説する。
1.中国シェールガスの現状
11月19日、中国国務院が中央政府のポータルサイト「中国政府網」を通じ、「2014~2020年エネルギー発展行動計画」を公布した。それによれば、2020年までのシェールガス生産量の目標は300億㎥である。この数字は2011年に発表された600~1,000億㎥(「2011~2015年シェールガス発展計画」)の半分以下であり、シェールガスの開発が予定より遅れている実態が明らかになった。
一方で、中国は2020年のGDPあたりCO2排出量を2005年より40%~45%減少させ、また、エネルギー自給率を85%に維持するというビジョンを掲げている。そのため、化石燃料の中で温室効果ガス排出量が比較的低い天然ガスの開発・調達を加速しなければならない事情がある。同計画では2020年までに天然ガスが一次エネルギーに占める比率を10%以上に引き上げるとしており、シェールガスについては、探鉱から生産までの一貫操業技術の形成と、生産の大規模化の実現を目標としている。
2.中国のシェールガス開発における政策動向
技術的に回収可能なシェールガス資源量で世界一にも拘わらず、中国において開発・生産が進まない原因は何だろうか。よく指摘されるのは、埋蔵地の複雑な地形、埋蔵層の深度、水資源の欠乏といった物理的な要因だ。しかし、中国のシェールガスの探鉱開発における最も大きな壁は、国有企業による開発参入の独占(図2)や政府によるガス価格統制といった体制の問題であろう。
2014年に入り、中国政府はシェールガスの開発生産を促進し、より開放的なシェールガス市場を作るための政策を強化している。その一つが、今年2月の「石油・天然ガスパイプラインの開放(試行)管理法」の施行だ。同管理法はパイプライン事業者の設備に余剰能力がある場合、第三者(中国登録企業)に対しパイプラインを公平に開放し、パイプライン設備に伴うサービスを提供することを定めたものである。これによって小規模な企業者が膨大なパイプライン投資をせずに、既存のパイプラインを利用し、シェールガスの開発に着手することが可能になった。
そして、参入企業の開発意欲に水を差していた低く抑えられたガス価格についても、主に非民用(商業用)天然ガスの価格設定 を中心として徐々に値上げを進めている。そのほか、海外から輸入されたシェールガスの場合、卸売り価格を自由価格とすると共に、売買並びにパイプライン輸送契約をガス源毎の締結とすることを可能とした。国内天然ガス価格の市場化に向けた取り組みが少しずつ進んでいる訳だ。
また、11月3日、国土資源部は最初のシェールガス鉱区の入札で約束した投資をしなかったとして、大手石油企業のSINOPECと政府系の河南省煤気に対し、それぞれ130万ドル、98万ドルの罰金を課した。さらに、両社とも、鉱区の一部を政府に返却した。これは、政府が石油・ガス権益の管理の強化の一環として、投資をしないなら権益を返却するべきだとしたためである。有望なガス田を占有している大手国有石油企業に対するこのような制裁は、中国政府が開発促進の決意を示したものであると受け止められている。
今後のシェールガス開発に関して、中国政府は四川省の長寧―威遠、重慶市の涪陵、雲南省の昭通、陝西省の延長等国家示範区を重点区域として生産拡大の実現を図るとしている。2014年のシェールガス生産量は10億㎥~15億㎥と予測され、2013年の1.9億㎥から大きく増加すると見込みだ。しかし、シェールガス生産量を計画通り2015年に65億㎥、2017年に150億㎥、2020年に300億㎥以上、と伸ばすためには、かなり大規模な開発を進める必要がある。その手段として、一貫操業技術の形成及び大規模生産の実現は不可欠だろう。今後、中国政府が計画実現に向けてどのような政策を打ち出すのか注目したい。
※中国政府は2013年6月に非民生ガス価格を15%引き上げた他、「存量気」(前年消費相当量)と「増加気」(今年消費量の増加分)という二段階のガス価格を設定した。その後、2014年8月に非民用(商業用)天然ガスの「存量気」部分における値上げを発表、2014年9月1日から実質的な卸売り価格にあたるシティゲート価格を約18%引き上げた。中国政府は2015年に非民用の前年消費相当量及び増加分価格を統一させる計画を進めている。
コラム執筆:劉 楊/丸紅株式会社 丸紅経済研究所
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