アジアでは、多くの国が都市化、工業化の途中にあり、通信・交通やエネルギーなどのインフラ建設に対する需要が強い。一方、建設資金や技術・経験不足から、供給が追いつかず深刻な課題となっている。アジア開発銀行(ADB)は、持続的な経済成長を実現するために必要な資金が2020年までの10年間で約8兆ドルと試算している。
こうした中、中国や東南アジア等の21か国は10月24日、北京で中国が主導する「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)の設立に基本合意した。これは、習近平国家主席が2013年10月のインドネシア訪問時に打ち出したものであり、送配電網や水道、鉄道などの整備に必要な資金を供給する新たな国際金融機関である。当初の資本金は約500億ドルで、参加各国はAPECを控えた11月3日にMOU(設立了解覚書)を調印した。AIIBは戦後の先進国を軸とした国際経済体制とは異なるものであり、さまざまな観点から、注目を集めている。
第一に、既存の国際金融機関との役割分担の問題が指摘されている。アジア地域のインフラ支援を行う機関としては、既にアジア開発銀行(ADB)が存在し、世界規模の機関としては世界銀行(WB)が包括的な取り組みを実施している(図表)。中国の楼継偉財政相は、AIIBが「既存の国際機関でカバーしきれない部分を補うことで、多国間開発銀行全体の力が強まり、世界経済の発展を一層、力強くする」との見解を示しており、「ADBやWB等の既存の多国間開発銀行と競争する関係ではなく、相互補完する関係になる」としている。WBのキム総裁やADBの中尾総裁も、受け入れる方向の声明を発表している一方、14年7月にBRICS諸国による設立が決まった「新開発銀行(NDB)」と同様、既存の多国間メカニズムに対抗する存在になるとして、警戒感を示す向きもある。
第二に、中国主導の国際機関である、という点である。習国家主席は11月4日、党中央財経指導グループの会議で、中国が主導する「21世紀海上シルクロード」と「シルクロード経済ベルト」の二つの経済圏構想の推進に向けて、2015年中のAIIB設立を目指すとしている。同時に「シルクロード基金」と呼ばれる別建てでの協力基金を創設する見込みであり、中国の国益を強く反映するものとなる可能性がある。中国は、2001年のWTO加盟を契機に国際経済体制への関与を深めていき、当時からASEAN諸国への関与に積極的であった。AIIBでは、中国が突出した出資比率をもつことで圧倒的な発言権を有することになるが、これがどういう結果をもたらすか不透明なところが多い。なお、過去に日本がアジア通貨危機後にアジア通貨基金(AMF)構想を打ち出した際には米国の反対で立ち消えになった例があるが、一国の過度な影響力の拡大に対して、他国はとても敏感なようである。
実際に、日本、米国、韓国、オーストラリアは現段階(2014年11月13日執筆時点)でAIIBへの参加を見送っている。各国とも中国側から参加要請があったといわれているが、上記の警戒感に加え、AIIBの融資機関としての審査能力やその透明性、不明確な融資基準等について、疑問がぬぐえずにいる。岸田外相は「国際機関と名乗るに値する公正なガバナンス(統治)を確立できるのか」と、中国が突出した出資比率をもつことで優位な発言権をもつことに対する懸念を指摘している。ただし、こうした懸念はあっても、AIIBは過去の構想のように、主要国の支持が得られず廃れるといったことにはなりそうもない。既に、新政権の発足で参加が遅れていたインドネシアはAPECを契機に参加を表明し、ASEAN10か国全てが参加することが決まった。14年7月の中韓首脳会談で対応を留保した韓国も、最近は「今後も緊密な意思疎通を続けていく」と参加に期待感を表明している。中国が国際的な影響力を増しつつある中、AIIBの成否と共に、各国の動向がどのように影響し合っていくのか、今後の情勢が非常に注目される。
コラム執筆:大﨑 祐馬/丸紅株式会社 丸紅経済研究所
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